衝撃のVTR登場から、6月5日(水)両国国技館大会でジュース・ロビンソンの持つIWGP USヘビー級王座に挑戦が電撃決定した、“元WWEスーパースター”ディーン・アンブローズことジョン・モクスリー。
全世界のプロレスファンに衝撃を与えた男、モクスリーのいったい何が凄いのか?
“プロレス評論家”であり、日本におけるアメリカンプロレスのエキスパートである斎藤文彦(フミ・サイト―)氏が、ジョン・モクスリーの魅力を徹底解説!
■『BEST OF THE SUPER Jr.26』
6月5日(水) 18時30分~東京・両国国技館 <優勝決定戦>
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※「2F指定席」は残りわずかとなりました。
■WWEという群れを離れて翼をつけて飛び立とうとしているからこそ、自分のルーツである、ジョン・モクスリーに戻したんだと思います
――さて、フミさん。今回、WWEを退団した元ディーン・アンブローズことジョン・モクスリー選手が自ら、SNS動画を発信することで、新日本プロレスへの電撃参戦をアピールしました。
斎藤 そうですね。まず、このジョン・モクスリーが元WWEスーパースターの中で格段に凄いのは、いままさに人気も実力も知名度も、つまり商品価値がピークにある中で、自らWWEとの契約を蹴ったっていうところなんですよ。
――なるほど。
斎藤 ここ10年ぐらいで言えば、たとえばMVPやビリー・ガンっていう元WWEスーパースターも新日本プロレスのリングには上がってますけど、彼らは少し前にWWEに上がってた人たちでしたね。
――いわばWWEの“OB”選手というか。
斎藤 ええ。ところが、今回のジョン・モクスリーは今年の4月にWWEの契約を満了ー更改を断り、自分の道を自分で切り開こうとして群れを離れた。そこが、この選手の一番凄いところなんですね。
――そのジョン・モクスリーですが、一体どんな選手なんでしょう?
斎藤 まず、日本のファンは名前からして「ジョン・モクスリーって誰?」となると思うんですよ。ちなみに、彼はジョナサン・グッドが本名なんですけど、今回はWWEに入る前のインディー時代、新人時代のリングネームだった“ジョン・モクスリー”をあえて選択しているわけです。
――HWAやCZWといったインディー団体を渡り歩いて、2011年にフロリダのFCWに入ったようですね。
斎藤 ハイ。このFCWという団体はWWEのディベロップメンタル、のちにNXTやパフォーマンスセンターに統合されていくんですが、何年間かだけ存在したWWEのマイナーリーグ団体なんです。
――WWEの2軍的な組織という感じですね。
斎藤 以前、同じような下部組織でOVWという団体もありましたが、現在はそれがトリプルH(レスラー兼、WWE最高執行役員)のプランで、フロリダ州オーランドにあるWWEパフォーマンスセンターに統合されています。そこを卒業したルーキーたちが「NXTに行くぞ」というシステムになっていますね。
――FCWからWWEのキャリアをスタートさせたわけですね。
斎藤 ハイ。彼は2004年に19歳でプロレスデビューしたんですけど、そのデビューした時に使ってた名前がジョン・モクスリー。おそらく彼にとって、ディーン・アンブローズというリングネームはWWEがプロデュースしてくれたものだという意識、日本的に言えば“世を忍ぶ仮の姿”という感覚がずっと付きまとってたんじゃないかなと察します。
――彼の中で「本当の自分ではない」と思っていたかもしれない、と。
斎藤 そこから、いまWWEという巨大なマシンを離れて翼をつけて飛び立とうとしているからこそ、自分のルーツ、あるいはアイデンティティーであるジョン・モクスリーに名前を戻したんだと思います。そういう意味でも、今回の彼の行動にはプロレスラーとしての志、気概をとても感じるんですよ。
■今回、彼が一人でWWEをおん出ちゃったことで、ザ・シールドは永久に封印されちゃったんですね
――そして、このモクスリー選手は、近年のWWEからの退団組でも現役バリバリの選手ですよね。
斎藤 現役バリバリどころか、いままさに実力も人気もピークにあるこの時期に、たった一人で群れを離れたわけですから。もう一つ重要なポイントは、先ほど2004年デビューと言いましたけど、2011年にはWWEと契約をして、2012年11月の『サバイバーシリーズ』ではもうメインイベントに登場しているわけです。ちなみに、この2004年デビューってどういう選手たちがいるかっていうと、日本だと飯伏幸太だったり、鷹木信悟だったり、全日本プロレスで言えば諏訪魔だったりするわけです。年齢的な部分でも、30代真ん中あたりでいまがアスリートとしてピークにある人なんです。
――飯伏選手や鷹木選手と同年デビューでしたか。
斎藤 モクスリーは85年生まれですから、次の誕生日(12月7日)が来て34歳ですよ。同じく85年生まれのCodyとは同い年です。で、「80年代生まれのレスラーってどんな人がいるのかな?」と考えると、モクスリーはザック・セイバーJr.より2つ上だし、オカダ・カズチカとSANADAよりは3つ上、デイビーボーイ・スミスJr.よりも1つ上。内藤哲也よりは3つ下……。まさに、新日本のトップ戦線の輪にすっと入っていける世代なんです。
――たしかに世代的にドンピシャな感じです。
斎藤 もう一つのポイントは、WWEの2000年代を考えたときに、ジョン・シーナっていう絶対的な主役がいて、そのあとランディ・オートンを経て、CMパンク時代もあったんですけど、その後の2010年代、2011年から2019年、ここ8年ぐらいのWWEのすべての長編ドラマの主人公が、“ザ・シールド”だったわけです。
――WWEを席巻した人気ユニットですね。
斎藤 このザ・シールドっていうのが……、このくだりではわかりやすくディーン・アンブローズと言いますけど、ディーン・アンブローズとローマン・レインズとセス・ロリンズとのトリオで。ここ8年ぐらいの絶対的な主役はジョン・シーナでもなければ、ダニエル・ブライアンでもなく、UFCから出戻りのブロック・レスナーでもなく、ずーっとこのザ・シールドの3人だったんです。
――2010年代のWWEはその3人を中心に回っていたと。
斎藤 そうです。その中でも、ローマン・レインズがブロック・レスナーに勝ってWWEユニバーサル王座を獲るとか、ザ・シールド内でディーン・アンブローズとセス・ロリンズが不協和音になって仲間割れをしたり、また仲直りをしたり、とかいろいろなドラマがあったわけです。
――ユニット内でも離合集散のドラマがあったわけですね。
斎藤 ハイ。ただ、残念ながら、去年はローマン・レインズが白血病を再発したということで半年間休場したんですけど、今年2月に抗がん剤治療が成功して試合ができる形でリングに戻って来た。そこでドラマが一時停止されていたローマン・レインズとディーン・アンブローズとセス・ロリンズの人間関係ドラマはもう一回、ザ・シールドとしてリング上で仲直りをしたんです。
――まさにリング上と実人生が交差したわけですね。
斎藤 ただ、そうやってリング上の連続ドラマと現実の世界の出来事が融合したタイミングで、ディーン・アンブローズはWWEを辞めちゃった。つまり今回、彼が一人でWWEをおん出ちゃったことで、ザ・シールドは永久に封印されてしまったんですね。ザ・シールドは3人あってのユニットですから、いわゆるWWEユニバースからすると「彼がいなかったら再結成ができないじゃないか!?」という話になるわけです。
――90年代の新日本プロレスで言うと、“闘魂三銃士”が離れ離れになってしまった、みたいな感じですかね。
斎藤 そんな感じかもしれないですね。「武藤(敬司)が抜けて、全日本プロレスに行っちゃった」とか、「橋本(真也)が抜けて、『ZERO-ONE』を立ち上げた」みたいなね。
――それぐらいWWEで影響力があったトップスターがいきなり抜けてしまったと。
斎藤 実際、いま現在はセス・ロリンズがWWEユニバーサル王座を持ってますし、ベルトは持ってないけどローマン・レインズは主役の位置にいます。ちなみに、WWE時代のディーン・アンブローズはWWE世界王座、WWE インターコンチネンタル王座を3回、WWE US王座、マネー・イン・ザ・バンク、セス・ロリンズとのコンビでWWE・ロウ・タッグ王座も獲ってる。ありとあらゆるタイトルをすでに総ナメにしてるんです。
――グランドスラムという感じで、ほとんどの主要ベルトを制していると。
斎藤 だけど、徐々に彼の中には「群れを離れる」っていう欲求が芽生えたんじゃないかなとボクは見てるんですよ。実際、アンブローズ1人がいなくなっただけで、超人気アイテムだったザ・シールドはもう二度と見られなくなるわけですね。まあ、WWEの方からみれば、「アイツのせいだ!」って感じなんだろうけど(笑)。
――「群れを離れる」というと、孤高なイメージがありますけど。
斎藤 そもそもザ・シールドは反逆部隊のようなタイプのユニットなんだけど、画面の中からにじみ出てくるローマン・レインズとセス・ロリンズの印象は明らかにWWEの主流派なんです。だから、メインイベントも張るし、オフィスからも信用が厚い選手なんだけど、ディーン・アンブローズだけはオフィスの方でも「コイツだけは、何をしでかすかわからない」という感じがあったので、「やっぱり、アイツは群れを離れたか」みたいな反応はあったと思いますよ。
――いつか退団するかもしれないというムードを醸し出していたと。
斎藤 そうですね。そして、ディーン・アンブローズも「俺が抜けちゃったら、ザ・シールドは二度とできないもんね」という確信犯的な気持ちはあったと思うんですよ。
――エース格じゃなく制御不能なタイプと考えると、内藤哲也選手なんかを連想しますけど。
斎藤 どうでしょうね。「群れを離れる」ということでたとえるなら、80年代の長州力になるのかもしれないし、90年代の橋本真也的な存在かもしれないし……。
――闘魂三銃士でいえば、蝶野正洋選手や武藤敬司選手的な立ち位置ではなかったと。
斎藤 そうではないですね。たしかに武藤敬司こそローマン・レインズであり、セス・ロリンズですよ。そう考えると、アンブローズはちょっと橋本的なイメージがあるのかな。だから、男性ファンはだいたい彼のことが密かに好きだったりするんですよ(笑)。
――主流派グループとして団体を背負うというよりは、破天荒な生き様を見せていく選手というか。
斎藤 そんな感じですね。そして、プロレスラーのタイプとしてはあんまり見栄えのいい技はやらない方なのにメインイベントを張る。ローマン・レインズやセス・ロリンズはスーパーマンパンチやスピアーやカーブ・ストンプとか、派手なフィニッシュ技がじつにカッコいいんですよ。でもアンブローズは基本的に殴る、蹴る、クローズラインといった単純な動きで試合を組み立てることができる。だから、プロレスそのものがすごく巧いということになるのかもしれない。それからWWEの中では極端にロープワークを使わない選手。それもまた大きな特徴です。あと、彼はみんなで記念撮影していても、一人だけ横を向くタイプなんですよ。そういう意味でも、WWE時代から常に孤高のイメージはまとわりついてましたね。
■正反対の道を選んだ二人が、8年の月日を経てリングで再会する。ジュースがモクスリーと対戦する必然性は十分にありますね
――それほど超トップクラスの選手であれば、高額の年俸も約束されていたと思いますけど……。
斎藤 そうですね。この人はワンミリオン、毎年1億円以上は稼いでいただろうし、WWE内部では隠語で“ジョン・シーナ マネー”とも言われているんですが、収入面では“マーチャンダイズ”の印税契約がすごく大きかったでしょうね。
――つまりグッズ売り上げのロイヤリティーということですね。
斎藤 新日本プロレスでいえば、BULLET CLUBのTシャツ、かつてはnWoのTシャツが大ヒットしたみたいに、ザ・シールドのグッズも信じられないようなマーチャンダイズの金額が入るわけですよ。
――高額のファイトマネーと同様、グッズ収入も大きいハズなのにそれを彼は放棄したと。
斎藤 もちろんWWEネットワーク(WWEのネット動画配信サービス)の中に映像がアーカイブされているうちは、ザ・シールドとして映っている映像は未来永劫とは言わないまでもある程度、彼に印税が入るのかもしれない。ただ、そうやって現在進行形で人気のピークにあるザ・シールドのポジションを捨てて、一人で外の世界に飛び出しちゃったのが、今回のジョン・モクスリーの行動の凄さですね。
――なるほど。
斎藤 しかも、4月の段階でWWEとの契約を更改しなかった時に、普通だったら「ひょっとしたらこの人、新団体AEWに行くのかな?」っていうウワサが出てくるわけですよ。ところが彼に関しては変なウワサは立たずに、「彼はオフを取るらしい」とか「自伝本を出版するらしい」とか、そういうムードが実際にあったんです。
――映画を撮る、という話もあったみたいですね。
斎藤 そうですね。すでにモクスリーは『ケージファイター』っていうMMA映画を撮影してるんですよ。この映画もいずれ上映されるだろうし、「彼は本を出そうとしてるらしい」とかいろんな話があった中で、「新団体に行くだろう」というウワサはほとんどささやかれなかった。だから、4月の時点では政治的な動きは感じさせなかった。契約満了で非常にクリーンなイメージで辞めてるんです。
――そうだったんですね。
斎藤 もちろんWWEのことだから、キナ臭い辞め方をしそうな選手はテレビ中継の中で扱いを落とされたりするはずなのに、最後の『マンデー・ナイト・ロウ』(TV番組)にも、ローマン・レインズとセス・ロリンズの二人とシッカリと握手をして去って行ったんです。
――そのあとモクスリー選手は、新団体AEWにも登場しましたが、今回の新日本プロレスへの電撃参戦は海外のプロレスファンにとっても、かなりの衝撃だったようですね。
斎藤 やっぱり、モクスリーは時代性のあるスーパースター。どこのリングに立っても“キーパーソン”になりえる人なんです。しかも、今回はまず世界中の人たちに向けて、SNSの映像でアピールもしてましたから、そのあたりに新しさを感じますね。
――新日本プロレス参戦の動画メッセージの前にも、自主製作版の動画をTwitterで配信してましたね。
斎藤 彼がTwitterで最初でアップした映像では、新キャラクターになったジョン・モクスリーが刑務所の中の牢屋に入れられていて、その壁を叩いてブッ壊して、檻の中から逃げていく。「俺はこうやってWWEから抜けたんだ」というメッセ―ジで、最後のシーンではパーカーのフードを被って、これからは我が道を行くみたいな印象でしたね。
――それが第1弾の映像でしたね。
斎藤 そのあと新日本の会場でも流されていた“謎の男”のVTRでは、自分のロゴをバーのカウンターにナイフで掘ってました。ちなみに、今回対戦するジュース・ロビンソンもコメントしていると思うけど、2人はさっき言ったフロリダのFCWで接触があったはずなんですよ。
――たしかに本日のジュース・ロビンソンの記者会見で「モクスリーはFCWの先輩だった」という話をしていました。
斎藤 ああ、ジョン・モクスリーはジュースの先輩だったわけですね。
――「よくバーに連れて行ってもらっていた」とも言ってましたね。
斎藤 なるほど! やっぱり、この2人にはドラマがありますね。
――ジュース選手の話では、当時のモクスリー選手とは“兄弟分”だったのかな、という印象を受けました。
斎藤 そのFCWで時間を共有したあと、モクスリーはWWEでディーン・アンブローズとして出世して、やがてザ・シールドになった。一方のジュース・ロビンソンは日本のリングを選択した。そういった正反対の道を選んだ二人が今回、8年の月日を経てリングで再会する。ジュースがモクスリーと対戦する必然性は十分にありますね。
――実際、フミさんの中で、モクスリー選手が新日本プロレスに来るという事態をどう思われますか?
斎藤 アメリカの2大メジャー団体間でテレビ番組の視聴率争いやトップ選手の引き抜き合戦があった90年代後半のWWE(当時・WWF)とWCWの『マンデー・ナイト・ウォーズ』に似ている部分もあるんだけど、あきらかに違うのはいまのプロレスは完全にネット文化の中にあるんです。
――なるほど。
斎藤 『マンデー・ナイト・ウォーズ』の時も、nWoというアメリカで立ち上がったユニットに、日本から蝶野軍団が合流してnWoジャパンが結成され、それが『ワールドプロレスリング』でも流される。当時はテレビの映像が一番速かったんだけど、いまはネット社会だから映像を待つ必要がないし、アメリカで発信しようが日本で発信しようが、ネットの映像ですべての出来事が即座にリアルタイムで、それこそ世界中に伝わりますよね
――たしかにWWEネットワークや新日本プロレスワールドの登場でタイムラグがなくなりましたね。
斎藤 もちろん、SNSではマスコミやプロレス団体がオフィシャルの情報を発信することもできるけど、今回のジョン・モクスリーの件はあくまで“自分発信”っていう新しさですよね。最も新しいメディアの中をレスラーが自由に泳いでるっていうイメージです。
――WWEネットワークの世界から、新日本プロレスワールドの世界へ瞬時にスキップしたような感じで。
斎藤 そう考えると、ジョン・モクスリーはいま一番新しいことをしていると思いますね。間違いなくプロレス界の最先端をいってるし、しかも「これは一人でできるんだよ」っていうのを、彼が証明しちゃった。彼は自分でTwitterやInstagramに映像を上げまくるでしょう。そうすると、それを見た世界中のファンがネット上でどんどんリアクションする。個人発信でもまったく問題ないほど、影響力が強いわけですよ。
――リツイート数やいいね数も凄かったですし、その影響力は世界屈指のレベルというか。
斎藤 いまや彼は超大物フリーエージェントになったのでしょう。そして、そんな自由になった彼が「いま、WWEじゃないとどこなんだろう?」と振り向いた先の一つが新日本プロレスだったんでしょうね。
――フミさんの中で、モクスリー選手が新日本を選んだことに意外さはなかったですか?
斎藤 ボクがまず最初に思ったのは「よくだんまりを通したな」「よく我慢したな」ということでした(笑)。こういう情報って、必ずどこからか漏れるものだけど、ジョン・モクスリーの凄いところは、『レッスルマニア』にも出場せず、1ヶ月間ジッと我慢していましたから。4月の1カ月間は、一生懸命に忍んでいたんでしょうね。
――普通は、少しは漏らしたくなるもんでしょうけど。
斎藤 今年の『レッスルマニア』でセス・ロリンズはブロック・レスナーに勝ってWWEユニバーサル王座を獲った。そういうことを考えると、自分がザ・シールドのトリオでまったく同格のはずなのに、『レッスルマニア』の場所に彼はいなかった。「ここは1ヶ月間待とう」っていう判断だったんでしょうね。だって、今回の件で、アメリカのプロレスファンは、新日本プロレスワールドを新しいプラットホームに選択するわけでしょ?
――そうなるといいですね(笑)。
斎藤 この現象は非常におもしろいし、そのプラットホームに乗っている先走ったファンは、「モクスリーは新日本でこんなことをするんじゃないか? あんなことをするんじゃないか?」とか妄想を熱く語っているわけです。モクスリーは、いずれクリス・ジェリコとも接触するでしょう。新日本プロレスで“何か”をやろうとする。その手始めとしてIWGP USヘビー級王座を獲ろうとしてますよね。
――これは、クリス・ジェリコ選手のやり方と似てますね。2019年に東京ドームに電撃参戦した時に、まずはケニー・オメガ選手のUSヘビー級王座に挑戦しましたから。
斎藤 まあ、ジェリコは今回の6.9大阪城ホールで、やっとIWGPヘビー級王座戦に駒を進めてきたわけですけど、ジョン・モクスリーがまず最初にターゲットにしたのは、IWGPという名前がついたUSヘビー級王座。彼はWWEでもUS王座も獲ってますからね。
■彼の必殺技はダーティ・ディーズ。“悪い行い”って意味なんだけど、リバースフルネルソンの体勢からDDTで落とすフィニッシャーです
――あらためてフミさんの目から見て、ジョン・モクスリーというのはどんな選手ですか?
斎藤 アメリカの表記で言うと身長が6フィート4インチ。WWEのトップグループの選手は、だいたい身長が190センチ近くあるんですよ。体重は、225~230ポンドぐらいの表記なので、体重では104~105キロのヘビー級。ハルク・ホーガンやロード・ウォリアーズの時代には、270~280ポンドとか体重が重めの選手が多かったけど、いまの時代の選手はAJスタイルズなんかを筆頭に、全般的に身体つきはスリムになってます。実際に見ると190センチぐらいで、104~105キロでもWWEの選手はデカいなと感じますね。
――ちなみに今回、モクスリー選手の公式発表は、「188センチ、102キロ」となっています。
斎藤 ボク、2年前のWWEの日本公演の時、両国国技館のバックステージで彼を見たんですけど、「うわ、ディーン・アンブローズって、こんなにデカいの!?」と驚いてたら、その横を通ったローマン・レインズはもっとデカかった(笑)。あの太ってるブレイ・ワイアットでも見上げるぐらい大きかったしね。
――WWEスーパースターは総じて身体が大きいですか。
斎藤 このモクスリーは本当はすごく器用なのに、技の数をあえて少なく絞っている選手ですね。彼はテリー・ファンクが好きだったりするので、試合には、殴る蹴るのリズムがあって、クローズラインがある。必殺技はダーティ・ディーズ。“悪い行い”って意味なんだけど、リバースフルネルソンの体勢からDDTで落とすフィニッシャーです。ただ、だいたいそのぐらいの技の数で勝ってきてるんですよ。
――技のバリエーションはかなり絞り込んでいると。
斎藤 「日本には、どんなスタイルで来るかな?」っていう部分もあるけど、彼は上がタンクトップで下はジーンズを履いて試合をするんですよ。ザ・シールドの時は、さらにプロテクターみたいな甲冑をつけていたんですけど、基本はデニムなんですね。靴もリングシューズじゃなくて、ワークブーツを履いたままでストンピングをしまくる。本当はいろんな技ができると思うんだけど、あえてそれを抑えめにしていて、基本は殴る蹴るが中心ですね。
――新日本への初参戦ということでコスチュームが変わる可能性もありますか?
斎藤 いまSNSでモクスリーが発信している映像を見ると、「俺はケンカ殺法でやるよ」というアピールに見えますよね。なので現時点では「デニムで来るんだろうな」と思っています。あと映像では必ずパーカーを着てますよね。パーカーで頭にフードを被って顔を隠している。今回は、あの一連の映像に近いイメージで来るんじゃないかなと思います。
■モクスリーはプロレス的にはすでに“達人”の域に達している選手だと思ってます
――いずれにしても、今回は2017年末に新日本プロレスを襲った“ジェリコショック”に続く、世界的な反響の試合になりそうです。
斎藤 こんなことができるのはモクスリー以外、ちょっと思いつかないですね。「WWEで人気も実力もいまピークにある状態で、わざわざこれをやる人って他にいるのかな?」と考えてもまったく思い当たらない。
――新日本のファンにはジョン・モクスリーのどんなところを見てもらいたいですか?
斎藤 新日本ファンで新日本以外に目がいかない層のファンの方々にわかりやすく言うなら、「いま世界的に、人気も実力も知名度も、つまり商品価値としてバリバリのピークにある人が、いきなり新日本に合流するよ。そういうふうに見てね」ということだと思います。
――モクスリー選手は、過去にまったく新日本と関係がない。まったくの初参戦となりますね。
斎藤 いまプロレスラーとしてピークにある人が突然変異みたく、こっちのリングに来ちゃったって感じですね。それに今回は“顔見せ”もないでしょ?
――そうですね。
斎藤 前置きが一切なく、「ジュース・ロビンソン、ごめんね」という感じで、突然の新日本マットデビュー。そして、いきなりのタイトルマッチ。ジョン・モクスリー的には、ここでいきなりトップのポジションから入る。そうすれば、新日本にも文句を言わせないというか、それだけの格がある選手だし、実力もある選手なので。「いきなり4番バッターが来たぞ!」っていう衝撃はあると思いますね。
――新日本しか知らないファンが見たら、カルチャーショックを受ける可能性もあるでしょうか?
斎藤 あまり予備知識がなくても試合で十分みんなを納得させられることのできるレスラーですからね。もしかしたら、殴る蹴るが多いから、「技、少ないね」って言われちゃうかもしれないけど(苦笑)。
――テリー・ファンク的な部分では、日本人が感情移入しやすいタイプでもあると思いますが。
斎藤 いまは技をいっぱいやる選手が多いので、わざとそこを少なめにして、観終わってみたらいっぱいやったように観える。本当はそれが一番難しいんじゃないかと思いますね。個人的には、モクスリーはプロレス的にはすでに“達人”の域に達している選手だと思ってます。とにかくWWEの中で丸8年、主人公としてずっとトップクラスから落ちずにいるっていうのは、ホントにとんでもないことですから。
――なるほど。非常によくわかりました。
斎藤 今回は、そんなメジャーリーグの4番打者がいきなり日本のプロ野球に電撃加入したような衝撃が走ると思います。とにかく試合を観れば、「この人、他の人と全然違う」というスペシャル感は伝わるでしょう。モクスリーのスーパースターとしてのグレードの凄さは「見ればわかる」と思います!
(了)
■斎藤文彦(さいとう・ふみひこ)
1962年、東京都杉並区生まれ。プロレス・ライター。コラムニスト。編集者。筑波大学大学院人間総合科学研究科体育科学専攻博士後期課程満期退学。早稲田大学大学院スポーツ科学学術院スポーツ科学研究科修了(スポーツ社会学)。オーガスバーグ大学教養学部卒業(バチュラー・オブ・アーツ)。在米中の1981年より週刊プロレス(ベースボール・マガジン社)記者として活動。海外リポート、インタビュー記事、巻頭特集などを担当。人気コラム”ボーイズはボーイズBoys Will Be Boys”は3デケードにまたがる長寿連載だった。専修大学、国士舘大学などで非常勤講師。と同時にほとんど主夫。自宅ではネコ5匹の世話係。近著に『プロレス入門』上下巻(ビジネス社)、『昭和プロレス正史』上下巻(イースト・プレス)、『フミ・サイト―のアメリカン・プロレス講座』(電波社)などがある。
■『BEST OF THE SUPER Jr.26』
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