プロレス界随一の論客・“GK”金沢克彦氏の独特の視点から、現在進行形の新日本プロレスのビッグマッチの感想を続々レポート(不定期連載)!!
今回は「棚橋&オカダ組に見た“プロレスの原点”! そしてジェイ、恐るべし!」“雪の札幌2連戦”を大総括!
■これが、私が直接聞いた天山の本音。私もその落とし前がどうつくのか興味津々である。
1.4東京ドーム大会以降、約1ヵ月後のビッグマッチとなる2月2日&3日、札幌(北海きたえーる)2連戦を『新日本プロレスワールド』で全戦観させてもらった。
まず、両日とも前半のタッグマッチで絡んだ因縁の天山広吉と飯塚高史の関係が気になった。2.21後楽園ホール大会での引退が決定している飯塚に対し、「目を覚ませ!」とふたたび友情タッグの結成を訴える天山。
一方、札幌に近い室蘭市出身の飯塚は、地元からシリーズに参戦してきた。しかし、飯塚は飯塚。怨念坊主スタイルをまったく変えることもなく、2日はパイプイス攻撃、3日はアイアンフィンガー・フロムヘルを天山にお見舞いし、堂々たる反則負け。
次に両者の対戦が決まっているのは2.11大阪大会。2.21後楽園の飯塚ラストマッチに関してはまだ何も決まっていないようで、カード発表もない状態。
「飯塚の引退に関しては寝耳に水で驚きましたワ。2008年4月の大阪のことは忘れられへんから。友情タッグTシャッツが出来上がって、試合前日に大阪の闘魂ショップで一緒にサイン会をやって売り出したんです。その翌日の試合で裏切られたわけでね。自分としては最後まであの落とし前にこだわってみたい。あの人がどう考えるのか……そこは全然わからないんですけど」
これが、私が直接聞いた天山の本音。私もその落とし前がどうつくのか興味津々である。なぜなら、飯塚が天山を裏切ってGBHに寝返った試合をリングサイドの放送席で解説していたから。その瞬間は目を疑ったし、隣にいた山崎一夫さんに至っては思わず立ち上がって、「飯塚、どうした!?」と声を張り上げていた。
それほどのサプライズであったのだ。私の真後ろに座っていた観客には抗議の声を掛けられた。
「金沢さん、せっかく今日、友情タッグTシャツを買ったのに、これはどういうことなんですか?」
その青年は目に涙を浮かべていた。
「だからねえ、もうそのTシャツを売ることはないと思うから、もの凄くレアなものになったと考えたらどうなのかな?」
とんでもない言い訳だけど、咄嗟にそんな言葉しか出てこなかった。
大阪、そしてラストの後楽園ホール。もとはといえば生真面目で正統派の権化のようなレスラーだった飯塚高史、底抜けのお人好しで知られる天山広吉。果たして、両者の間にどのようなドラマが待ち受けているのだろうか?
■歴史があるからこそ、戦場が新日本マットに変わっても、鈴木とSANADAはどこかで意識し合っている。
では、本題に入りたい。初日の2日は翌3日に控えたタイトルマッチ、あるいは2.11大阪でのタイトルマッチ前哨戦となる試合が多く組まれた。第6試合、第7試合ではIWGPタッグ選手権の前哨戦として、ロス・インゴベルナブレス・デ・ハポンvs鈴木軍のシングルマッチ2連発。
まずは、SANADAvs鈴木みのる戦。すこし話はさかのぼって、1.28後楽園ホールでのこと。当日のメインカードは今年に入って熾烈なユニット抗争を展開してきたロスインゴvs鈴木軍の5対5イリミネーションマッチ。結果的に、タイチのひとり残りで鈴木軍の勝利に終わった大白熱戦だった。
その大会前のバックステージでのこと。ホールの外階段で鈴木みのると出くわした。まだスイッチの入っていない鈴木としばし会話する。相変わらず顔色がいいし、コンディションのよさが伝わってくる。マシンを使ったウエートトレーニングなどはいっさい行なわずに走り込みと、スパーリングで好調をキープしているという。
「オレに関しては年齢なんて関係ないし、それはリング上を見てもらえばわかるだろう?」
「うん、だって本来プロレスラーには年齢もキャリアも関係ないんだから。プロレスラーという存在じたいがマスクマンのようなもので。だれがイチバン凄いか? イチバン強いか? そこだろうからね」
「まあ、だれがイチバンおもしろいか。オレはそこだと思っているけどね」
「それにしても、相変わらずロープワークでも足が速いねえ? ダッキングしてスリーパーに入るときのスピードなんか見ていると、『おおっ!』って声が出てしまうもん」
「当たり前じゃん(笑)。今日だってSANADAより足が速いのを見せてやるから。ジュニアのBUSHIにだって走るスピードでは負けないからな」
実際、試合でもSANADAとからむシーンが多く、鈴木の速さには毎度のことながら驚かされた。同時に、SANADAを特別に意識していることも伝わってきた。
というのも、鈴木とSANADAとの関係はけっこう深いのだ。さかのぼること8年前、舞台は全日本プロレスの『チャンピオンカーニバル』。同年の4.13後楽園ホールで最終戦が開催された。
最終戦にも公式戦が組まれており、A、B両ブロックの最高得点者が優勝決定戦で対戦する。つまり、ファイナリストは1日=2試合が義務付けられていた。
まず第4試合のBブロック最終戦で大森隆男を破った永田裕志が先にファイナル進出を決めた。永田の相手は第6試合のAブロック公式戦の結果しだい。カードは鈴木みのるvs真田聖也だった。すでに、永田は準備していたし覚悟もできていた。
全日本の春の本場所のメインで、永遠のライバルである鈴木みのると雌雄を決するのだ。
ところが、波乱が待ち受けていた。キャリア4年に満たない真田がドラゴンスープレックスで鈴木から大金星を奪取。これにてAブロックの首位に躍り出たからだ。
「ちょっとこれ、大変なことになっちまったよ」
メイン登場の準備をしていた永田は、驚いた表情でせわしなく控室から出てきた。SANADAは休憩なしの2連戦。それでも20分を超える激闘を展開している。結果的に、永田がバックドロップホールドで初出場初優勝を達成し、直前の新日本『NEW JAPAN CUP2011』に続き団体の枠を超えて春の大一番を連覇している。
「正直に言いましょうか。真田という選手はタナ(棚橋)より運動神経は上だと思ったね。彼はきっと上がってきますよ」
そのときに聞いた、永田の本音がコレだった。
これが、いまも語り継がれている真田聖也の出世試合。当時、全日本の外敵エースだったみのるを破って、新日本の永田と優勝を争ったこと。これで一躍、真田の名前は全国区となったのだ。そういった歴史があるからこそ、戦場が新日本マットに変わっても、鈴木とSANADAはどこかで意識し合っている。
本人たちに訊けば否定するかもしれないが、私はそう思って両者の闘いをずうっと見てきた。この日も、両者のシングル戦はガッチリと噛み合った。SANADAが執念のパラダイスロックを鈴木に決めてみせた。屈辱的な攻撃に荒れ狂った鈴木は場外戦で暴れまくる。
打撃戦のエルボーの応酬では一歩も引かず。最後は、Skull Endか、ゴッチ式パイルドライバーかの勝負へ。激しい切り返し合戦の末に、鈴木が切札を決めて会心の勝利。2年前の『G1』公式戦につづいてSANADAからシングルでの白星を奪い取った。
■あえてなのだろう。EVILは密着しての攻防で仕掛けていった。EVILの心意気が垣間見えてくる。
つづく第7試合のEVILvsザック・セイバーJr.戦も因縁カード。周知のとおり、昨年の10.8両国大会で一騎打ちが組まれながら、入場時のEVILをクリス・ジェリコが急襲し戦闘不能に追い込み、試合が不成立とされた経緯がある。
あれから4ヵ月、こちらも熱戦となった。あえてなのだろう。EVILは密着しての攻防で仕掛けていった。EVILの心意気が垣間見えてくる。絶対的なパートナーで同志とはいえ、SANADAとはライバルでもある。そのSANADAが昨年の『G1』公式戦でザックの土俵で闘い、ザックを制した試合が高い評価を得ている。
負けてたまるかの思いも当然あるだろう。同時に、もちろんEVILだってできるのだ。基礎は新日本道場で磨いたものだが、米国ROHを中心に活動していた2014~2015年当時、EVILはブラジリアン柔術の道場にも通っていた。極めの強さを身に付けるという向上心もつねに忘れることがなかったわけだ。
このEVILの姿勢は、その後に米国遠征へと旅立った高橋ヒロム、YOH&SHOの3選手にも受け継がれていった。
中盤からは、打撃合戦、パワー勝負へ。ザックの関節地獄に苦しみながら決定打を許さないEVILはパワーで押し切った。丸め込み技の連発で勝負にきたザックを一瞬にして一発のEVILによってねじ伏せた。これにて、IWGPタッグのシングル前哨戦は1勝1敗となった。
■この図式に、プロレスの原点の姿を見るような思いにも駆られた。もともと日本のプロレスの歴史は、日本人vs外国人という図式からスタートした。
そして、メインでは歴史的シーンが現実のものとなった。“歴史的な”と書くと、「なんと大袈裟な!」と思われるかもしれない。だから、正確に記すなら「歴史を掘り起こさされるような」と称したほうがいいのかもしれない。
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