大好評! テレビゲームのプロデュースを行っている、野中大三さんによるプロレスコラム。今回は、「『G1』ラストにやってきた不確定要素」
■第36回 「『G1』ラストにやってきた不確定要素」
みなさん、こんにちは。
コラム「ゲーム的プロレス論」の野中です。
衝撃の結末でした。
『G1CLIMAX31』の優勝決定戦は25分37秒、飯伏選手が肩を負傷したことによるレフェリーストップでオカダ選手の勝利となりました。
この試合で感情が大きく揺らいだファンが多くいらっしゃったと思います。
僕はゴングが鳴った直後に涙があふれてきました。
しかし、その後のオカダ選手のマイクで気持ちの切り替えができ、むしろ元気をもらうことができました。
今回はその過程で気づいたことについて書いていきます。
テーマは「不確定要素の存在意義」です。
■衝撃の結末はやるせない気持ちでいっぱい
今年の『G1』は見どころが非常に多い大会でした。特に目を引いたのは優勝候補に挙がることのなかった選手がしっかりと準備をしていて、目覚ましい結果を残したことです。
新技投入で飯伏選手を初戦で破った高橋裕二郎選手。
サブミッションに磨きをかけて前半戦をけん引したザック・セイバー・Jr選手。
柔軟な対応力で底力を見せたグレート・O・カーン選手。
肉体改造と多数の新技投入でオカダ選手を破るサプライズを成し遂げたタマ・トンガ選手。
もちろん優勝候補だった鷹木選手、ジェフ・コブ選手、棚橋選手のコンディションはものすごくよく、高品質の試合を連発してくれました。
その中で残った飯伏選手とオカダ選手は「やっぱり強いな」と思いました。
どんなに強い相手が出てこようが、過酷な試合展開になろうが、最後には競り勝ちました。
心技体のすべてが強い。そんな頼もしさを最終戦で発揮して優勝決定戦に進出した両選手。
今年の優勝決定戦はとんでもないベストバウトになる予感がありました。
飯伏選手がオカダ選手を膝で打ち抜いてV3を成し遂げる未来か、オカダ選手がレインメーカーで飯伏選手をノックアウトして完全復活をぶち上げる未来なのか。
どちらかの未来がすぐそこに迫っている…。どっちにしてもとんでもなく興奮する未来だぞ…。
という期待はむなしく、やってきた未来は予想と全く違うものでした。
敗れた飯伏選手はもちろんですが、オカダ選手もこの未来は求めていたものではありません。
未来を掴むために二人の選手が戦い、どちらも求めているものを手に入れられないという結果になったのです。
ここまで勝ち残った二人のどちらも報われない。そんな現実に途方もなく強いやるせなさがこみあげてきて涙があふれてきました。
プロレスという競技においてアクシデントはつきものです。
肉体をぶつけあう競技であり、しかも激しい技を繰り出し、あえてそれを受ける体力の削りあいが前提の競技ですからケガによるアクシデントはつきものです。
実際のところ試合中の負傷によるレフェリーストップ決着はそれほど珍しいものではなく、たまに発生します。
しかし、『G1 CLIMAX』の優勝決定戦という大舞台で起こったことは過去31年の歴史で一度もありません。
アクシデントはプロレスという競技における、いや、むしろスポーツである以上必ず存在する不確定要素です。いつ起こるかわからない。いつだって起こる可能性がある。でもできる限り起こってほしくない。
起こらないよう万全の対策をする。でも可能性はゼロにならない。
そんな不確定要素がこの優勝決定戦で発生してしまった、というのが今回我々が迎えた未来でした。
■不確定要素は悪いだけではない
ゲームでも不確定要素は必ず存在します。
いわゆる「運」でゲーム体験が左右されてしまう要素を指します。
悪い方に作用した場合、どんなことが起こるかというと以下のような例になります。
・ボスが全然攻撃してこないまま戦闘が終わってしまった。
・ゲームの序盤で強い装備が手に入ってしまい簡単に進めてしまった。
・ガチャでほしいキャラが全然出ない。本当に出ない。
悲しいことですね。
こんなことになるとは思っていなかったよ!
と嘆いているユーザーさんが目に浮かぶとともに悲しい自己体験がよみがえります。
しかし、不確定要素は不安を生むだけではありません。
不確定要素はユーザーを不安にさせますが、それがあるからこそおもしろくもなりのです。
「万が一ということもあるから備えておこう。」「最悪の事態を考えてレベルはしっかり上げよう。」
「一か八かの勝負に出よう。」
といった不確定要素に向き合うことで勇気や希望をもって目標に向かうことができるのです。
■アクシデントを受け入れるオカダ選手の強さ
ゴングが鳴り、飯伏選手の応急処置が続くなか、オカダ選手は狼狽した様子を見せることはありませんでした。むしろ飯伏選手の処置に加わり、いたわる度量の大きさを見せてくれました。
そして僕が感動したのはそのマイクパフォーマンスです。
「勝ちは勝ちです。」
そうオカダ選手は言い切りました。
オカダ選手が思い描いた結果ではなかったはずですが、勝負論こそがG1の絶対的な価値尺度です。
不確定要素であるアクシデントが発生しても『G1』は『G1』。うろたえることなく、堂々と勝ち名乗りを上げる姿に、強く励まされました。オカダ選手は間違いなく勝者でした。
運が悪かった。ただそれだけでしょ?
アクシデントに動じることない強い心がそこに感じられました。
このマイクパフォーマンスを聞いて、優勝はオカダ選手しかいないと思いました。
どんな結果であっても激闘を戦い抜き、最後に立っていたのはオカダ選手です。それが何を意味するのか。
『G1』というシリーズのすべての過程を背負って立つのがG1覇者の姿とするなら、オカダ選手ことが優勝にふさわしい。そんな安心感で武道館を満たしてくれたと感じました。
飯伏選手との再戦を約束しつつ、4代目IWGPヘビーのベルトを要求する傲慢さも見せてくれました。
やさしさと強さと傲慢さを備えてレインメーカーが新日本プロレスの最前線に戻ってきました。
来年の東京ドーム大会まで3か月を切りました。しばらくはオカダ選手の独走が止まることはなさそうです。
どんな不確定要素にも負けず、未来を作り出そうとする姿に期待しましょう。
■野中大三(のなかだいぞう)
dotswreslerアーティスト、コラムニスト
プロレス観戦歴、ゲーム歴ともに37年。
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