ついに目前に近づいてきた『戦国炎舞 -KIZNA- Presents POWER STRUGGLE』11月5日(土)大阪・大阪府立体育会館(エディオンアリーナ大阪)大会。
すでにチケットはソールドアウトとなるなど、大きな注目を集めるこの大阪大会、今回も“GK”金沢克彦氏が見どころを徹底解説!!
■『POWER STRUGGLE』
11月5日(土)17:00〜大阪・大阪府立体育会館 ★対戦カードはコチラ!
■驚いたのは、大会11日前の10月25日に前売りチケット完売の告知があったこと
新日本プロレスにとっては、年内最後の関西ビッグマッチと定義付けしていい11月5日、大阪府立体育会館大会。実際には、この先に11.23名古屋・愛知県体育館大会も控えているのだが、こちらは『WORLD TAG LEAGUE2016』の天王山。
つまり名古屋ではタッグリーグ公式戦がテーマとなるため、来年の1.4東京ドームのカード編成に直結する関西ラストビッグマッチが大阪大会といえるわけだ。
それにしても驚いたのは、大会11日前の10月25日に前売りチケット完売の告知があったこと。当初予定されていた当日券の販売もないというから、開催前から超満員札止めが約束されてしまった。
こうなると、いまさらワタクシ・金沢が大阪大会の見どころを煽る必要だってないのかもしれない。まさに嬉しい商売上がったりというやつなのだが(笑)、いろいろな想像(妄想)をめぐらせたり、人それぞれにさまざま思い入れを抱きながら観戦するのが、プロレスの最大の魅力。そこで、私なりの“11.5大阪ビッグマッチの見方"を綴ってみたいと思う。
■新日本の正しい在り方という常識論。それを根底から覆し、新たな世界観を構築してしまったのがロス・インゴなのである
今大会のメインテーマは、新日本プロレス本隊vsロス・インゴベルナブレス・デ・ハポン(以下、ロス・インゴ)のシングル4番勝負。いや、ここではあえてロス・インゴvs新日本の4番勝負と書きなおしておこう。それほどこの1年、新日本マットにはロス・インゴ旋風が吹き荒れた。
今年早々の離脱騒動。中邑真輔、AJスタイルズ、カール・アンダーソンと新日本マットの主力を担ってきたスター選手たちが次々と米国WWEへ移籍したにも関わらず、その穴を埋めたばかりか新風を吹かせたのがロス・インゴだった。
新日本プロレスとはこうでなくてはならない、新日本には絶対にこうあってほしい!
オールドファンだけではなく、ビギナーファンの間にもいつの間にか出来上がっていた新日本の正しい在り方という常識論。それを根底から覆し、新たな世界観を構築してしまったのがロス・インゴなのである。
スペイン語を和訳したときの「制御不能な男たち」は、まさにピッタリのフレーズ。そのリーダーである内藤哲也は、反逆のカリスマとしてファンの絶大な支持のもと完全に認知されてしまった。
誰だってスポットライトを浴びる者なら、観客からの大声援が欲しい。武藤敬司に憧れ、棚橋弘至を目標に順調に出世街道を歩んできた内藤は、そのトップの地位に王手を賭けたこともある。ところが、そこに突然変異のスターが凱旋してきた。レインメーカーことオカダ・カズチカ。
棚橋に劣ることのない強さと華やかさ。オカダが光れば光るほど、内藤の存在感がどんどん霞んでいく。そこで焦って背伸びすればするほどファンに見透かされ、いつの間にかブーイングの対象とされていた。とくに、大阪ファンの反応は厳しかった。内藤に浴びせられる大ブーイング。東の聖地・後楽園ホール以上に、西の聖地・大阪府立のファンはストレートそのものだった。
■ふたたびトップを狙うために内藤はレスラー生命を賭けて振り切った。その答えが、毒だった
追い込まれた内藤は究極の二択を迫られた。華か毒か!? ふたたびトップを狙うために内藤はレスラー生命を賭けて振り切った。その答えが、毒だった。ファンの方なら想像できると思うが、リングを降りた普段の内藤哲也は以前となんら変わっていない。礼儀正しい、ふつうの好青年。強いて他のレスラーとの違いをあげるなら、広島東洋カープの応援をしているとき以外は、24時間ほぼプロレスのことばかり考えているというところだろう。
かつて中邑から、「内藤はプロレスのことしか考えていない。だからレスラーとしての視野が広がっていかない」と指摘されてこともある。しかし、いまになって内藤はそれを自分の武器に転じてしまった。
「地方興行だけど、5年前の×月×日の○○大会の6人タッグの試合後に俺はこういうコメントを残しているはずなんですよ。誰も憶えていないだろうけど、いま言っていることと同じでぜんぜんブレていないでしょ?」
正式なインタビューの場でも雑談であっても、内藤自身の口からそういった過去の記憶と事実関係がたびたび掘り起こされてくる。書き手、伝える側にとって、これ以上ない材料を彼は提供してくれるのだ。
そこで過去の資料を調べてみると、たしかに内藤はそう言っている。この抜群の記憶力とブレることのない主張によって、内藤のセリフは何倍もの説得力を増してくる。決して、その場の思いつきやアドリブではない。過去の自分と現在を重ね合わせたアピール、パフォーマンスができるからこそ、ファンは内藤に本物を感じる。それが恨み節であろうと、上から目線であろうと、本物だから内藤はカリスマに化けたのだ。
■内藤哲也「ジェイ・リーサルには実際に0勝2敗。ただし、リベンジだとかそういう気持ちはサラサラないですよ」
その内藤にとって、因縁の地である大阪で迎えるIWGPインターコンチネンタル選手権。挑戦者はマイケル・エルガンの負傷欠場(左眼窩底骨折)により、ジェイ・リーサルに代わった。内藤vsリーサルの関係は、じつは内藤vsエルガンよりも根深いものがある。
シングルの対戦成績でいうと、内藤はリーサルに2連敗を喫している。昨年5月、メキシコCMLLのロス・インゴベルナブレスと合体する直前のROH遠征で、当時リーサルが保持していたROH世界TV王座に挑戦して敗れ、最近ではインターコンチ王者になった直後にROHのマサチューセッツPPV大会で一騎打ちを行ない、またも敗戦。
もっと過去の因縁もある。2009年当時、裕二郎(現・高橋裕二郎)とのノ—リミットで米国TNAに遠征していた内藤は、タッグマッチで何度もリーサルと対戦しているのだ。
そういった経緯もあって、今年2月、後楽園ホール2連戦で開催された新日本&ROH合同興行でロス・インゴベルナブレス・デ・ハポンとリーサルは合体した。ところが、8月のROH遠征で内藤とリーサルが仲間割れして、ロス・インゴからリーサルを追放、そして9月の決着戦という流れとなったわけである。
「エルガンのように真っすぐにくる相手は一番得意なタイプ。手のひらでコロコロ転がせるからね。でもジェイには実際に0勝2敗。だからエルガンのようにやりやすい相手とは言えないかもしれない。ただし、リベンジだとかそういう気持ちはサラサラないですよ。
プレッシャーが掛かってるのは向こうでしょ? だって、あいつが日本でこんなビッグマッチのメインに出られるなんて二度とないことかもしれない。それもこれも、神ってる俺が対戦相手だから実現するわけでね。だから、そんなことよりも年内最後の大阪のビッグマッチのメインを俺が締めるというのがいちばん大切なことですよ」
そう、内藤のすべてのこだわりは大阪でメインを飾ることにある。思い出してもらいたい。今年3月、『NEW JAPAN CUP2016』で優勝し、4・5両国大会でオカダの保持するIWGPヘビー級王座への挑戦を決めた内藤は、3段階のリベンジロードを頭に描いていることを名言した。
まずは、オカダからIWGPヘビー級ベルトを奪うこと。二番目は、内藤への大ブーイング発祥の地といっていい大阪にIWGP王者として凱旋すること。三番目が、来年の1・4東京ドームでファン投票を行なったうえでメインイベントのリングに立つこと。
実際に、オカダからIWGPベルトを強奪し、王者として6.19大阪城ホールのリングに立った内藤。敗れはしたものの、すべてを手のひらに乗せ会場を支配したのは内藤だったという印象が強い。ただ、内藤自身にはやり残したことある。
■内藤のプランの一端、その前触れだけでも大阪大会で見られるのかもしれない
「大阪のお客様もストレスがたまっているんじゃないかと。大阪城ホールでたしかにメインは務めたけれども、『ハッ・ポーン!!』の大合唱ができなかったから。大阪のお客様もそれを望んでいると思うので、次は大合唱しましょうと。もう、年内最後のビッグマッチとなる大阪は内藤のための舞台としか思っていないのでね」
なるほど、最後の大合唱があってこそ、リベンジロード第二弾の完遂となるわけだ。それでは、第三弾の1.4ドームのメインをどう考えているのか? すでに、オカダvsケニ—・オメガのIWGPヘビー級選手権が東京ドームのメインイベントと発表されているのだが……。
「3年前(2014年)の1.4ドームの屈辱は忘れてないからね。俺がG1で優勝して取った権利証にはちゃんと『東京ドームのメインイベント』って書いてありましたよ。だけど、ダブルメインイベント第1試合という呼び名のセミに降格させられたわけだし。ファン投票を借りた会社の意向と思惑によってね。ただし、いまの俺はもうベルトを超えた存在になってしまっているから、それなりのプランは考えてますよ。まあ、11月の前半から半ばにかけて動きだそうと思っているので……まだトランキ—ロかな」
内藤のプランの一端、その前触れだけでも大阪大会で見られるのかもしれない。
■棚橋に負けは絶対に許されない。SANADAに2連敗となれば、棚橋の2016年はなにも残せないまま終焉となってしまう
さらに、この日は棚橋vsSANADA戦が組まれた。改めて説明するまでもなく、SANADAの出世試合となったのが、7.18札幌・北海きたえーるでの『G1 CLIMAX』開幕戦での公式戦。『G1』初戦、シングル初対決にして、ポテンシャルを全開にしたSANADAが棚橋に快勝した。そのインパクトは今でもファンの脳裏に焼き付いていることだろう。
この一戦で、棚橋に負けは絶対に許されない。SANADAに2連敗となれば、棚橋の2016年はなにも残せないまま終焉となってしまう。つまり、それはエース陥落を意味するのだ。
反対に、しっかりとリベンジを果たせば、ようやく口を開くこともできるだろう。1.4東京ドームで6年連続メインのリングに立った男として、7年連続へのチャレンジに動きだすということ。そのための標的であり手段は、今年の宿題となったままのインターコンチのベルトか、それともレスラー内藤哲也なのか? いずれにしろ、いま現在の棚橋はエースとしてではなくチャレンジャーとして大阪へ挑むカタチとなる。
■ひとつ言えることは、柴田vsEVIL戦こそ大阪大会のベストマッチ候補ナンバー1であるということだ
NEVER無差別級選手権の柴田勝頼vsEVIL戦も、王者・柴田からのリベンジマッチである。『G1』の最終公式戦、8.13両国大会で鬼気迫るEVILの猛攻に敗れた柴田。結果論となるが、この一戦を勝ち抜けば、柴田の優勝決定戦進出が決まっていたのだ。
かと言って、柴田からすればリベンジが目的という次元の相手ではないようにも思う。ヒールユニットのロス・インゴにいながらにして、EVILという選手は気持ちいいほど真っ向勝負の男。だからこそ、レスラー間、マスコミ間での評価が抜群なのだ。柴田も若いEVILになにか通じ合うものを感じているような気がする。
今年1年で、NEVER無差別級選手権を賭けて闘うこと、なんと10戦目。「いま、プロレスが俺の身体の一部になっている」と言い切る柴田が、こんどはどんな命を削る闘いを見せてくれるのか? また、EVILの日本マット初戴冠は実現するのか?
ひとつ言えることは、柴田vsEVIL戦こそ大阪大会のベストマッチ候補ナンバー1であるということだろう。
■BUSHIvsKUSHIDA、新時代の日本人ジュニア頂上対決は、非情な現実と背中合わせの闘いなのである
IWGPジュニアヘビー級選手権は、9.17大田区大会以来のリターンマッチとなる。立場を代えて王者がBUSHI、挑戦者がKUSHIDAという図式。勝者は当然、1・4ドームの花道をベルトを巻いて入場することになるし、敗者はドームの花道さえ歩くことが叶わない可能性も出てくる。なぜなら、新日本のジュニア勢は日本人、外国人と過去最高に充実した層の厚さを誇っているからだ。
ということは、敗れた選手にはベルト挑戦の機会が当分まわってこないことも意味している。新時代の日本人ジュニア頂上対決は、非情な現実と背中合わせの闘いなのである。
そして最後に、要注意というか、私がどうしても気になっていることがある。9.12後楽園ホール、9.17大田区総合体育館の2戦において、ロス・インゴというよりBUSHIのフォロー役としてセコンドについた仮面男の存在だ。
この仮面男はロス・インゴ5人目のパレハ(相棒)なのだろうか? 仮面男はみたび何らかのアクションを起こすのか?
11月5日、プロレス“西の聖地"における今年度最後のビッグマッチ。いい試合、凄い試合など当たり前。それを超えた現代プロレスの真髄を見せつけられると同時に、とんでもないサプライズまで待ち受けているのではないか? いま、そんな予感がしている。
●金沢克彦(かなざわ・かつひこ)
1961年12月13日、北海道帯広市生まれ。
青山学院大学経営学部経営学科卒業後、2年間のフリ—タ—生活を経て、1986年5月、新大阪新聞社に入社、『週刊ファイト』編集部・東京支社に配属。1989年11月、日本スポーツ出版社『週刊ゴング』編集部へ移籍。2年間の遊軍記者を経験した後、新日本プロレス担当となる。1999年1月、編集長に就任。2004年10月まで5年9カ月に亘り編集長を務める。同年11月、日本スポーツ出版社の経営陣交代を機に編集長を辞任し、同誌プロデューサーとなる。翌2005年11月をもって退社。
以降、フリーランスとして活動中。現在は、テレビ朝日『ワールドプロレスリング』、スカパー!『サムライTV』などの解説者を務めるかたわら、各種媒体へフリーの立場から寄稿している。
●金沢克彦ブログ「プロレス留年生 ときめいたら不整脈」