いよいよ終盤戦に突入した『バディファイト presents G1 CLIMAX 26』。各地で激闘が繰り広げられている中、Bブロックの最終公式戦が行われる8月13日(土)両国国技館大会を、“GK”金沢克彦氏が渾身の特別寄稿!!
■「G1 CLIMAX 26」
8月13日(土)18:30〜東京・両国国技館
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※「砂かぶり」は完売となりました。
※「アリーナA」「アリーナB」「アリーナC」「2F特別席」は残り僅かとなりました。
■Bブロック最終公式戦に期待するのは、初物対決が起こす爆発的な化学反応である
前回のコラム(特別寄稿)にて、『G1 CLIMAX』の両国国技館3連戦は、優勝決定戦が行なわれる最終日より、各ブロック代表が決定する2連戦のほうがスリリングでおもしろい! そう断言するように書いている。
とくに、初日(8月12日)のAブロック最終公式戦の場合、結果はわからなくてもその内容はある程度読めてくる。オカダ・カズチカvs棚橋弘至、後藤洋央紀vs丸藤正道、真壁刀義vs石井智宏とくれば、もう“鉄板カード"である。どういう結末が待っていようとも、試合内容に大・大・大満足することは請け合いだ。
一転して、Bブロック最終公式戦が組まれている8月13日(土)両国大会。こちらは読めない。結果はもちろんのこと、試合内容も未知数であるから読めない。というのも、目玉となるカードがすべて初顔合わせとなるからだ。
ただし、いまの新日本マットのトップ中のトップが対戦したときに、ハズレはないというのがここ数年の常識。反対に、大当たりしたときのインパクトには凄まじいものがある。
私が、Bブロック最終公式戦に期待するのは、そこの部分。初物対決が起こす爆発的な化学反応である。
星取り(※8月6日時点)でいくと、現在まで2敗をキープしている内藤哲也とマイケル・エルガンの2選手がリードしているものの、デッドラインといわれる3敗組には、永田裕志、矢野通、YOSHI—HASHI、ケニ—・オメガ、中嶋勝彦と5選手が残っている。4敗を喫している本間朋晃とEVILは他力本願の厳しい立場に置かれている。
いずれにしろ、かなり混沌としているBブロックの星取り争いが今後も展開されていくであろうなかで、最終戦には興味津々のカードがマッチメイクされた。
■内藤vsケニーに関しては実績云々ではなく、両選手の卓越した力量からいって、メインに組まれるべきだ
まず、点数抜きに考えたとき当然メインイベントに組まれるべき試合は、内藤vsケニー戦だろう。今年の1.4東京ドームまでジュニア戦線で活躍していたケニ—だから、これは正真正銘の初対決。内藤によれば、「彼とは同じリングに立った記憶がないなあ」となる。つまり、タッグマッチでもからんだ経験がないわけである。
前IWGPヘビー級王者の内藤と前IWGPインターコンチネンタル王者のケニ—。しかも、内藤はオカダからベルトを強奪し、ケニ—は棚橋との新王者決定戦に勝利している。
実績として文句なしだ。
ただし、この一戦に関しては実績云々ではなく、両選手の卓越した力量からいって、メインに組まれるべきだと私は思っている。ロス・インゴベルナブレス・デ・ハポンのリーダーとなって約1年、プロレスラーとして大化けしてみせた内藤。
その大化けの意味は別人に変わったという意味ではない。もともと彼が持っていた肉体的、精神的なポテンシャルを晒け出し、堂々と表現することによって、内藤哲也の本性がリング内外で見られるようになったのだ。
たとえば、この『G1』でも内藤らしさが爆発した試合がいくつかある。まず、7・24後楽園ホールのメインで実現したエルガン戦。内藤とエルガンは昨年5月12日、新日本&ROH合同興行となった米国フィラデルフィア大会で対戦している。試合は10分余、内藤が回転エビ固めで勝利。さして、記憶に残るような試合とはならなかった。
その後、両者はターニングポイントを迎える。内藤は米国遠征を経て単身メキシコに渡り、ラ・ソンブラ、ル—シュらと意気投合しロス・インゴベルナブレスと合流。ここから内藤の“反乱"がスタートした。
一方のエルガンは、昨年の『G1』にエントリーされ初来日。バンバン・ビガロ+ロード・ウォリア—ズのアニマルを合わせたような動けるパワーファイターとして、日本で大ブレイク。今年に入って、ついに新日本所属選手となるほどの高い評価を得ている。
ともにトップクラスとなってからの二度目の一騎打ち。まったくタイプが違う両雄ながら、闘いは噛み合い、後楽園ホールは大爆発した。そこで、もっとも強く感じたのは内藤の懐の深さ、受身の上手さだった。エルガンのどんな危険な大技を食らっても受身を取って、ダメージを最小限に抑える。絶対絶命の危機から瞬時に体重移動してデスティ—ノに切り返してみせる閃き。
前王者ながら、これぞ王者の闘い方を見せつけられた思い。また、7.30愛知県体育館のメインを飾った柴田勝頼戦は素晴らしいというより、凄まじい内容だった。シンプルな闘いを身上とする柴田。一方、本来多彩な技で試合を組み立てていく内藤が、柴田に呼応した。基本にあるのは感情をぶつけ合う闘い。内藤が見せた攻撃も裏4の字固めであったり、変型膝固め(足へのキーロック)といったグラウンド技。それをクロスヒールホールドに切り返す柴田。
派手な大技は見られないのに、観客はグイグイとリング上に惹きつけられていく。最後はPKでフィニッシュと思いきや、柴田はふたたび内藤を胴絞めスリーパーに捕え、レフェリーストップ勝ち。
おそらく柴田も驚いたのではないか? 内藤が大技に頼ることなく、自分の土俵に入ってきた。さらにシンプルな攻撃、グラウンド技、そして気持ちで対抗してきたからだ。
この2試合を観て、また内藤の懐の深さを痛感させられた。もちろん、プロレスというのは対戦する両者ともに力量があるから好勝負が生まれる。それがわかっていながらも、日ごろ内藤がよく口にする「俺の掌の上だよ」というのも頷けてしまうのだ。
■いまのケニ—は攻撃力、受身、パワーに技術、さらにお喋りまで兼ね備えたベストな外国人ヒールレスラーに成り上がった
じつは、それと同じようなものを私はケニ—・オメガから感じる。1.4東京ドームまでジュニア戦線にいた男は、AJスタイルズ離脱と同時にBULLET CLUBの新リーダーとなった。当初は、AJの代理など無理だろうとみんな感じていたはず。ところが、いま『G1』に参戦しているケニ—を見ていると、とても初出場とは思えない。もう3~4回、『G1』に参戦しているような空気を醸し出している。これがケニ—の成長ぶりであり、内藤同様に懐の深さを示しているのだ。
そんなケニ—の象徴的な公式戦が2試合ある。まず初戦(7・22後楽園ホール)でYOSHI—HASHIに敗れ、いきなり金星を献上してしまった試合。ケニ—はYOSHI—HASHIの持ち味を存分に引き出し、同時に後楽園のファンを掌に乗せてみせた。
9割方、試合をコントロールしていたといっていい。ところが、最後の最後でYOSHI—HASHIの新兵器・カルマを食らってフォール負け。想定外の大技に屈することになった。公式戦なのだから、勝ち点がすべてという見方もあるだろうが、YOSHI‐HASHIのインパクト満点の初勝利は相手がケニ—であったからこそ。
次も敗れた試合になるが、7.30愛知県体育館での因縁のエルガン戦。先の5・19大阪城ホールでは新日本初のラダ—マッチ(インターコンチ戦)を行ない、会場も放送席も興奮の坩堝に叩きこむ異色の名勝負を展開した両雄。この一戦に関しても、いま思えばラダ—のありとあらゆる使いかたなど、ケニ—の思うがままであったと思う。
今度は、そういったギミックなしの真っ向勝負。それでも試合は一進一退で白熱した。ラダ—がなくても、両者はガッチリ噛み合う。エルガンの巨体をグラウンドポジションから持ち上げて、そのままパワーボムで投げて見せるケニ—のパワーもケタ外れ。大味な攻防のようで、じつは巧妙な切り返しの応酬があったり、この2人の闘いは名勝負数え唄の域に入ってきたのかもしれない。
結果的に、エルガンボムに沈んだものの、やはり試合をコントロールしていたのはケニ—だったように思う。受身にも絶対の自信があるからこそ、エルガンと真っ向からぶつかり合えるのだ。
今大会、私個人でいうなら、ケニ—・オメガへの印象がイチバン変わった。かつてのケニ—は路上王にしてクラッシャーだった。だが、いまのケニ—は攻撃力、受身、パワーに技術、さらにお喋りまで兼ね備えたベストな外国人ヒールレスラーに成り上がった。
内藤vsケニ—、どちらがどちらを掌に乗せるのか? または相手の掌に乗ったふりを見せるのか? プロレスラーとして、肉体のぶつかり合いは当然として、互いに全知全能を注いだ高度なレスリングが披露されるのではないか?
おそらくBブロックの最後を飾る公式戦。純粋に、どちらが優れたレスラーなのかを見てみたいところだが、もしかしたらロス・インゴベルナブレス・デ・ハポンvsBULLET CLUBによる総力戦となる可能性も。
この一戦に優勝戦進出権が懸かってきた場合、それも大いにある得るかもしれない。
■EVILは永田と真正面から対峙できる男。すなわち柴田とも充分に渡り合えるだろう
さて、もうひとつの注目カードが、これも初対決となる柴田勝頼vsEVIL戦だろう。柴田は戦前から、やたらとEVILを気にしていた。開幕2日前の直前会見では、EVILのサングラス姿を見て、「軍事評論家みたいなやつがいる」と呟き、EVILがコメントを出せば、「キング・オブ・ダークネスって、しゃべるんだっけ? しかも日本語だよ」と驚き、完全にEVILの出で立ちと存在がツボにハマった感じ(笑)。
ただ、なにもおちょくっているわけではない。他人の試合をほとんど見ないという柴田であるが、対EVILに関しては真面目なコメントも残している。
「あいつも海外から帰ってきて1年ぐらい? キング・オブ・ダークネスも、もうすぐ1歳か……。俺のなかではもの凄く未知数な相手なので、闘うことに関しては楽しみは楽しみです」
柴田の本音まではわからない。試合もほとんど観ていないという。ただし、EVILに対する他のレスラー、マスコミからの評価がうなぎ登りなのは知っていると思うのだ。
今回の『G1』において、すでに4敗を喫しているから戦績は決してよくはない。ただ、さすがEVILというシーンは何度か見せつけられた。その象徴的な試合が、7・24後楽園ホールでの永田の公式戦。
バックドロップホールドに敗れたものの、EVILは永田のリズムでしっかりと闘った。間をとった永田のリズムに最近の若いレスラーなら焦れてしまうと思う。ただし、EVILは永田に負けず劣らず1発1発が的確で重みもあるから、観客も退屈しない。永田の痛烈なミドルキックも胸を突き出して受け切った。
永田のリズムで闘いながらも、勝負と見たら猛スピードで畳みかけることもできる。永田と真正面から対峙できる男。すなわち柴田とも充分に渡り合えるだろう。打撃合戦は一歩も退かないだろうし、同系の技であるEVILと武者返しの決め合いも観られるかもしれない。
そして、なによりも柴田はEVILのすべてを受け止めるつもりではないのか?『G1』に出た意義あり。柴田戦を経験してEVILがそう感じたとしたら最高だろうし、それは名勝負となった証でもあろう。
■「いま、プロレスに憑りつかれている」と言う柴田は、ある種「ZONE」に入ったのかもしれない
では、満身創痍に見える柴田の状態はどうなのか? 初戦(7・22後楽園ホール)で本間のカウンターのラリアットを食ったときに右肩をキャンバスに打ちうけた柴田。それ以降、試合となると柴田の肩には大きなテーピングが施された。
トレーナーの診断によると肩鎖関節亜脱臼。さらに、3戦目(7・27長野)で左膝も負傷した。開幕から険しい表情でコメントも発しなかった柴田だが、その状態で内藤を破った7.30愛知大会あたりから様子が変化してきた。
翌31日、岐阜大会の試合前には私と軽い雑談も交わしているが、いつもの穏やかな柴田に戻っていたし時おり笑顔ものぞかせた。
なんというか、「いま、プロレスに憑りつかれている」と言う男は、ある種「ZONE」に入ったのかもしれない。リングに上がれば、怪我を忘れる。痛みを痛みと感じない。むしろ、こんな状態でも日々闘えることに喜びを感じている。
エルガンには敗れているものの、内藤、ケニ—から勝ち点を奪っている柴田は、この2強に対して有利な立場にいる。
13日、両国大会。Bブロック最後の公式戦で組まれた内藤vsケニーと柴田vsEVIL。この2試合から優勝戦進出者が決まるような予感がしている。
●金沢克彦(かなざわ・かつひこ)
1961年12月13日、北海道帯広市生まれ。
青山学院大学経営学部経営学科卒業後、2年間のフリ—タ—生活を経て、1986年5月、新大阪新聞社に入社、『週刊ファイト』編集部・東京支社に配属。1989年11月、日本スポーツ出版社『週刊ゴング』編集部へ移籍。2年間の遊軍記者を経験した後、新日本プロレス担当となる。1999年1月、編集長に就任。2004年10月まで5年9カ月に亘り編集長を務める。同年11月、日本スポーツ出版社の経営陣交代を機に編集長を辞任し、同誌プロデューサーとなる。翌2005年11月をもって退社。
以降、フリーランスとして活動中。現在は、テレビ朝日『ワールドプロレスリング』、スカパー!『サムライTV』などの解説者を務めるかたわら、各種媒体へフリーの立場から寄稿している。
●金沢克彦ブログ「プロレス留年生 ときめいたら不整脈」