■AJからはもの凄く“動物っぽさ”を感じますよね。動き一つに関しても、本能的な感じがします。
——さて、中邑さん。いよいよ1・4東京ドーム大会が近づいてきましたが、いまの心境はいかがですか?(このインタビューは2015年12月末に収録)
中邑 フフフ。毎年のこととはいえ、この時期は、とくに日が過ぎて行くのが早く感じますね。最終シリーズが終わったかと思ったら、「もうクリスマスかよ!?」って感じで。で、すぐに大晦日から正月。そして、1.4。だから、レスラーはけっこう急ぎめにコンディションを整えないといけないんですよ、隙間を見つけて。
——しかも今年は、年末に1ヶ月もの長い巡業がありましたからね。
中邑 そうですね。ホントに自分もシリーズ後半は身体がヤバかったですよ。トレーナールームに行くと、いろんな選手が入れ代わり立ち代わりに来てたし。「ああ、これキテんな、やっぱ」と思って。
——そんな中、1・4東京ドームで中邑選手のIWGPインターコンチネンタル王座に挑戦するAJスタイルズ選手が、腰の負傷で『WORLD TAG LEAGUE 2015』を途中欠場しました。その後、ROHで試合をやったという情報も入ってきましたが…。
中邑 そうですね。ROHのほかにももう2試合ぐらいやってるんじゃないですか? まあ、そうは言っても1週間は確実に休みが取れると思うので。選手的な感覚でいうと、かなりコンディションを改善して“ワンショット”、1.4東京ドームにブツけてくることは可能だろうなとは思います。
——AJ選手とは2008年8月にタッグマッチ(AJ&棚橋弘至vs中邑&カート・アングル)で1度だけ絡んでから接点がなく、今年11月23日桑名の10人タッグ、11月27日広島の「WORLD TAG」Bブロック公式戦(中邑&石井智宏vsAJ&高橋裕二郎)で久しぶりに対戦しました。その感触はいかがでしたか?
中邑 フフフ。あまり知られてないですけど、桑名で絡んだのはビックリしましたけどね。「ここで初めてやるんだ!」と思って。まあ、公式戦でも結構やりましたけど、なんだろうな? まだ掴みどころがないですね。なんというか“サイズ感”もあんまりないタイプで。
——おお、「“サイズ感”がない」というのは面白い表現ですね?
中邑 ええ。サイズで言うと、“自分よりもデカい”もしくは“自分と同じぐらい”、あるいは“自分よりちょっと低い”とかはありますけど、身長に関して言えばAJは「けっこう低いな」と思って。
——以前、中邑選手がプロレスリング・ノアの丸藤正道選手やKENTA選手(現WWE)と闘ったとき、やはりサイズの話をしていましたけど。
中邑 ただ、サイズが小さいとはいえ、AJには軽さがないんですよね。跳躍力とか空中殺法というものはふんだんに使って来ますが、技を食らったときにズッシリ重い感じがするので。身体の筋肉のつき方もそうだし。とにかく重みを感じますね。
——たとえば、日本人選手で近い人はいますか?
中邑 いや〜…YOSHI-HASHIと身長は同じでも、YOSHI-HASHIのあの何とも言えないマイルド感とはぜんぜん違うから。フフフ。まあ、AJからはもの凄く“動物っぽさ”を感じますよね。動き一つに関しても、本能的な感じがします。
——飯伏幸太選手ともまた感覚は違いますか?
中邑 飯伏はもっとシャープっすね。あと、飯伏のステップとかリズムの刻み方っていうのは、やるほうからしたら自分は掴みやすかったですね。でも、AJはステップを刻みながら間合いを取ってきたりするタイプではなく、スーッと歩いて来ていきなりバーッと爆発するようなイメージがあるので。
——それほどの違いがあるもんなんですね。
中邑 闘うほうにしたら、そういうAJの個性を「どう生かすか? どう殺すか?」というところなんですけど、桑名で最初に当たったときは、ちょっと自分が浮かれすぎて覚えてないっていうね(苦笑)。で、広島のときは、いろいろあってよくわからない空気感になっちゃったから。
■AJが来たとき、「あっ、こんなんなってんだ!?」っていう感じでしたね。まあ、向こうも俺を見て「あ、こんなんなってんだ!?」と思ったでしょうけど
——あと、AJ選手は「技が的確だ」とよく言われますね。
中邑 そうですね。90年代のレスラーって(身体の)サイズや分厚さで勝負してきましたけど、ボクを含めた2000年代のレスラー、AJスタイルズ、ロウ・キー、ダニエル・ブライアンなんかは、サイズがないぶん「スピード、技、オリジナリティ」といったほかの武器をクリエイトしてきた選手が多いと思うんですよ。
——まさしくAJもそのくくりだと。
中邑 ええ。AJが最初に日本へやってきたのも2000年代前半だし。だから、常に彼の名前は引っかかってましたね。
——再び新日本プロレスへやって来たのは、2014年4月。それ以前はTNAでヘビー級王者としてトップを張っていて。
中邑 フフフ。急にビジュアルもよくなってね。それが彼にとってホントの意味での“プライム”の始まりじゃないかと思います。あのころはTNAの求心力が日本まで波及しなくなっていた状態だったから。AJが来たとき、「あっ、こんなんなってんだ!?」っていう新鮮な感じでしたね。まあ、向こうも俺を見て「あ、こんなんなってんだ!?」って思ったでしょうけど。
——なるほど(笑)。オカダ・カズチカ選手とAJ選手の抗争が始まった当初は、ファンがAJ選手についてわからない部分もあったと思いますが、その後は本当に試合のクオリティだけで、人気も知名度もグングン上げてきました。
中邑 そうですね。そのへんは日本人に受け入れられやすい形で証明してきたと思います。
——あとはBULLET CLUBでプリンス・デヴィット選手の後釜に座ったというのもありますし…。
中邑 そういうタイミングだとか、やっぱりAJには、運もあると思いますよ。
——それで、中邑選手はここ数年いろんな海外へ行かれたわけですが、AJ選手もその各地にいたと。そういうときは、やっぱり“目に見えない火花”みたいなものはあるんですか?
中邑 火花なのかなんなのか……。ただ、やっぱり、海外の団体が「高い航空券を払ってでも呼びたい」っていうのは、選手にとってトップというある種の証明じゃないですか? そういった、誉れ高き感情を共有してきたというか。現場とかで「あ、オマエもなの?」っていうのはありますね。
——ああ、レスラーの中でも“選抜感”を感じてきた仲というか。
中邑 そういう感じはしましたね。自分はAJよりも全然あとからそうなったわけですけども。逆に言うと、日本のマーケットでAJが頭角を現したのは、「俺、日本でガンガンいけてるんですけど?」みたいな感覚だと思いますね。アメリカのマーケットから日本市場がどう映ってるかっていうと、新日本に出られるってことは、レスラーとして一目置かれるわけじゃないですか? しかも、新日本プロレスとか、日本のプロレスをパクっているヤツなんか、世界中にゴロゴロいるわけですよ。でも、AJはそんな中でオリジナリティを発揮してトップに君臨していると。
——そう考えるとAJ選手の凄さがよくわかりますね。
中邑 だから、自分が海外へ出るのと同じ感覚を、AJは日本においてやっていると。で、たまに日本でもない、アメリカでもない所で、おたがいになぜか一緒になるっていうね。
——そこで2人が交錯するわけですね。では、ほとんど肌は合わせなかったものの、中邑選手にとってAJ選手は常に気になる存在だったという。
中邑 そうすね。だからこそ、対戦するうえで「で、いったいどんなヤツなんだ?」「どんなレスリングをするんだ?」という興味は凄くありますよね。スタイルも違う、身長も違う、体重も違う、筋肉のつき方も違う、使う技も違う。だけど世界、AJからしたら日本を含めた世界、俺からしたら日本以外の世界で、どちらも受け入れられている。名前が通っているわけであって。
——世界的に見ても“トップ中のトップ”の 2人が、1.4東京ドームで激突すると。
中邑 フフフ。しかも、いままで全然やったことなくて、初物(初シングル対決)で、その舞台が東京ドームで、しかも2人にとって身体が一番動けるいいタイミングで……。
——そうですねえ。まさに運命的なまでに、ベストタイミングですよね。
中邑 そう。ベストタイミングで。「そんなの、感動しなきゃおかしいでしょ?」みたいな。
■インターコンチのタイトルが懸かってますけど、「じゃあ懸かってなかったらこの試合の価値は下がりますか!?」って
——しかも中邑選手は、桜庭(和志)戦(2013年)、棚橋戦(2014年)、飯伏戦(2015年)と、東京ドームでインターコンチの名勝負を連発している。そういう中、東京ドームでAJ選手を迎え撃つというのは、いかがですか?
中邑 う〜ん、なんだろうなあ? もう、この“奇跡”に感動してしまっているので。だから、「余計な飾りや味付けは必要ないぜ」と思っちゃってるんですよね。もうホントに「ありのままの中邑真輔、いま一番いい中邑真輔とAJスタイルズを“素材のまま”でお楽しみ下さい」と思っちゃってますね。
——ましてや、AJ選手とは因縁があるわけでも、抗争をしているわけでもない。味付けは必要ないと。
中邑 そうですね。だって、インターコンチのタイトルが懸かってますけど、「じゃあ懸かってなかったらこの試合の価値は下がりますか!?」って思うじゃないですか?
——たしかに。たとえ、ただのスペシャルマッチだとしても……。
中邑 だとしても。そうですよ。ビッグバン・ベイダーvsスタン・ハンセンぐらいですね。あるいは、アンドレ・ザ・ジャイアントvsスタン・ハンセンぐらい。まあ、あえて自分で言いますけども。フフフ。
——それほど、ご自分で言うぐらい楽しみなんですね。
中邑 楽しみ!「イェー♪」っていう感じっすね。
——いいですね。もうシンプルにみんなに楽しんで欲しいと。
中邑 ええ。だから、例えるならば、“世界一と言われる車同士”で、「さあ!」って言ってレースをするみたいな感覚ですよ。
——そもう言葉はいらないですもんね。タイトル戦ではあるけれど、それを超越したようなワクワク感があります。
中邑 自分が「インターコンチ、インターコンチ」って言わなくても、“ベスト・イン・ザ・ワールド”の2人が闘うわけだから、ベルトの価値は確定済みでしょう。上がることはあっても、下がることはない。まあ、自分がこれだけワクワクしてるんで、間違いないでしょう。東京ドーム、どうぞ楽しみにしてください。