■それぐらい衝撃的なことだったじゃないですか、「あのレインメーカーが試合後に泣く」っていうのは
——さぁ、棚橋さん。この時期(年末)になると、「いよいよ来るな」という感じですか?
棚橋 そうですね。日を追うごとに、徐々に高まってきましたね、イッテンヨンへの気持ちが。
——東京ドームに向けてのシリーズ『Road to TOKYO DOME』を通しても、各地で期待感を感じました?
棚橋 ええ。地方会場にしても、やっぱ声援が真っ二つですね。というか、6:4、もしくは7:3で、オカダの方が多いですけど。これがね、ますますボクにプレッシャーをかけるわけですよ(苦笑)。
——普通はタイトル戦というのは、挑戦者に声援が多くかけられると思いますが?
棚橋 そうですね。それが本来のタイトルマッチのあるべき姿ですから。それだけオカダがいろんな部分で勝ち取って来てるってことですね、ファンからの声援も支持も。
——そのオカダ選手からしたら、今回の闘いは棚橋さんへのリベンジマッチになりますよね。
棚橋 そうですね。これは大きな流れでいうと、1年ぶりの対決じゃないですか。で1年前はボクが勝っている、コレはオカダのリベンジマッチですよ、メインストーリーは。
——そういう自覚はありますか?
棚橋 あります。それぐらい衝撃的なことだったじゃないですか、あのレインメーカーが試合後に泣くっていうのはね。
——『週刊プロレス』の表紙にもなりましたし、オカダ選手の涙は、ファンの心に絶大なインパクトが残ってますよね。その一方で、今回はチャレンジャーというご意識もありますか?
棚橋 ハイ。立ち位置としてはもちろんチャレンジャーですよ。その辺は丁寧に、やってきたつもりですね。大阪の大乱闘で突っかけたり、「俺はチャレンジャーだ」っていう姿勢をしっかり出して。で、前哨戦であっても、五分に闘う必要はない。こっちから仕掛けていかないとね。それがチャレンジャーの使命ですから。
——加えて、いままであの“挑戦権利証”のブリーフケースをここまで浸透させた選手はいないと思います。
棚橋 でしょ? いつどこでも持ち歩いて、海外もね、イギリスも台湾も持ってったし。なんだったら、ちょっとずつ剥げてビンテージ感さえ出てきたんすよ(ニッコリ)。
■オカダとボクのここまでのシチュエーションは、もう二度とないかもしれないですね。
——『G1』覇者とIWGPヘビー級王者、チャンピオン同士の頂上対決という意識はありますか?
棚橋 そうですね。たしかに『G1』直後は、サイン色紙であっても、『G1王者2015』、『G1覇者』って常に入れてたんですけど、やっぱりある程度、賞味期限もありますよね。
——『G1』優勝者がドームで闘うという流れの中、賞味期限的には徐々に落ちてくる部分を自分で上げていく作業は大事ですよね。
棚橋 ええ。そこはチャレンジャーとして、もう一度自分自身に磨きをかけないと、常に注目を集め続けていかないと。でもこの過程はスゲーおもしろかったですよ? 僕自身も2015年は「『G1』で急浮上した」っていう自覚もあるし、『G1』自体のデカさも感じたし、それ以降の注目度も含めてね。
——『G1』前からオカダ選手がベルト持っていたこともあって、オカダvs棚橋戦の機運は、半年間たっぷり寝かせてきた感もありますよね。
棚橋 そうですね。で、その間にオカダはAJ倒してるし。……ただ、これはね、もっともっと大きな流れで見た方がいいですね。
——というのは?
棚橋 例えば、2012年のドームで、凱旋帰国したオカダが「お疲れ様でした」とリングに上がってきた場面から始まって、2013年には棚橋がチャンピオンでドームで迎え撃った。2015年もオカダを迎え撃った。そこから、今回は1年越しのリベンジなんだけど、チャンピオンとチャレンジャーが入れ替わってる。まあ、いろいろあったわけじゃないですか?
——東京ドームを舞台に、いろんなドラマを紡いできましたよね。
棚橋 でね、ボク思ったんすけど、オカダとボクのここまでのシチュエーションは、もう二度とないかもしれないですね。大局的に見て。
——ここまで決戦感のあるオカダvs棚橋戦は今後、二度とあるかわからないと。
棚橋 そもそも来年以降、棚橋が動けるのかっていうね。年齢的な部分でいえば、ボクはもう39歳、まあ、自分は生涯ピークですけど。なんか、そういった“哀愁”すら若干あるわけですよ(苦笑)。
——なるほど。
棚橋 まあ、2013年には時代っていうキーワードも賭かってましたけど、今年ほど“時代”が賭かってる年はないですよ。棚橋時代が継続するのか? 終了するのか? っていう、ボク目線から見たらね。
——そういう意味ではファンの下馬評はいかがですか?
棚橋 正直に言って、「オカダ有利」ですよね。期待度という部分でも。やっぱり、オカダはいつ見ても新しいですよ。なんで新しさを感じるのかなと思ったら、やっぱり身体がデカい。背も高い。で、開けてない引き出しがまだいっぱいありそうじゃないですか?
——たしかにそうですね。
棚橋 いつまでも伸びしろがあるっていうか。ボクなんて、伸びしろはもうあとちょっとですから。常に全力だから。伸びしろすらも越えちゃうっていうね(苦笑)。
——そういった部分では、2015年のオカダ・カズチカはどのようにご覧になってますか?
棚橋 もはや誰が対戦相手であっても、オカダの余裕を消せてないですね。結構、ボクの感覚で言ったら、天龍戦はちょっと別としても、オカダに対して、オカダを本当の意味で焦らした選手っていなかったと思いますね。……まあ、唯一『G1』の中邑戦だけは、「さすが中邑だな」と思いましたけどね。
——中邑選手以外は、オカダ選手の余裕を消すことができないですか。
棚橋 ええ。AJスタイルズも対戦するごとに進化してるとは思いますけど、オカダは「あのAJにすら」っていう感覚もありますよ。ちょっと「このままいくと、本当に誰も追いつけなくなるんじゃないか」っていうぐらいの評価がありますね。
——オカダ選手は、中邑戦、AJ戦、そして天龍戦を経て、完全にモンスター化してきたというか。
棚橋 うまいですね。おっしゃるとおり、まさにモンスター化ですよ。
——関係者の中では、天龍戦がキーポイントだったという方も多いですが?
棚橋 そう言いたくなる気持ちもわかりますけど、あれはオカダがあえて見せていなかった部分というか。ただ、いままでファンが感じてなかった泥臭さだったり、昭和のエッセンスを保管したって感じですよね。そういう意味では、たしかに大事な試合だったと思います。いままでオカダに乗れなかった古いファンの方たちも、「急に乗れるぞ」みたいなね。……いや〜、ボク、相手を超分析してるでしょ?(ニヤリ)。
——ハイ。では、その“モンスター化”したオカダ選手をどう攻略しますか?
棚橋 それは、ボクが対オカダで思い描くビジョンという部分でいくと、ボクはもっともっとスターになってないといけないんですよ。ボクにはプロレスをいつも見てる人と、まだ、プロレスを見てない層にもドンドン発信していかないといけない役割があるんでね。じゃあ今回はどうするか? シンプルです。今回も俺が勝つんです。また、オカダを泣かせばいいんですよ(あっさりと)。
——あ、また泣かしますか。
棚橋 ええ。また泣かしますよ。東京ドームは涙雨のどしゃぶりですよ。1月4日は晴れ時々、涙雨です(ニヤリ)。
——なるほど。“モンスター化”したオカダ選手をさらに食うことで、自分がスタートして巨大化してやると。
■オカダに嫌というぐらい勝って、ズバ抜けたスターになるんです、棚橋弘至は。
棚橋 そうですよ。あの〜……少し話は変わりますけど、新日本プロレスの歴史は、アントニオ猪木さん以降でいうと、「武藤敬司をスターにしきれなかった」っていうのが痛恨だったと思うんですね。
——お、それはおもしろい視点ですね。
棚橋 IWGPヘビー級王者として君臨した橋本真也さんも、岐阜の同郷なんで、凄く誇らしかったんですけど。ただ、どう見てもビジュアル、体格、運動能力見ても、武藤敬司はアントニオ猪木の域までいける選手だったんですよ。ただ、ファイトスタイルも、姿勢としてもそれほどガツガツしないタイプじゃないですか、武藤さんって。
——たしかにそうですね。そのあと、全日本プロレスに移籍したことで存在が巨大化していった印象はありますけど。
棚橋 ええ。だから、俺はもっとその域を越えたいですね。“飛びぬけた一強感”というか。じゃあどうするか? あのオカダに対して勝ち続けるしかないんですよ、もう嫌というぐらいに。嫌というぐらい勝って、ズバ抜けたスターになるんですよ、棚橋弘至は。
——そういう意味では、オカダ・カズチカというのはこれ以上ない相手ですよね。
棚橋 そうですね。で、もう二度とないでしょうね、こういうシチュエーションは。作ろうと思って、出来るもんじゃないんですよ。じゃあどうする? 「今、見ておかないといけない」んじゃないですか? フフフ。
——最後に、オカダ選手に言いたいことはありますか?
棚橋 いや、巡業中にも言ったんですけど、オカダが凄いのはわかると。ただ、真のチャンピオン像はまだ描けてないですね。チャンピオンは安息の日々もないし、安住の地もないわけですよ。常に対戦相手以外とも闘い続けるっていう覚悟も必要なんで。
——そのへんで足らない部分があると。
棚橋 ええ。アイツにそれができるまでは、俺が立ちはだかって、勝ち続けるし、泣かし続けます。そして試合後には言ってやりますよ。「IWGPは、まだ早いぞ!」と(ニヤリ)。