03年に新日本でプロレスデビュー。中邑真輔、後藤洋央紀、田口隆祐の同期でもある山本尚史は、07年に新日本マットを離れて、WWEへ転出し、ヨシ・タツとして活躍していた。
そのヨシタツが、10.13両国で約7年ぶりに新日本マットに電撃復帰!! 棚橋弘至のピンチを救出し、11.8大阪でAJスタイルズとの対戦が発表。まさに“渦中の男”ヨシタツに直撃インタビュー敢行!!
■新日本に帰ってくることは、ボクの中では“大前提”の話なんですよ
——さて、ヨシタツ選手。突然の復活で、日本のプロレスファンは驚いていると思いますが。
ヨシタツ そうですね。驚かれた方はいたと思うし、「なんでこのタイミング?」と思う人もいたかもしれない。けど、それは、「IWGPが巻ける!」っていう自信が出来たんでね。だからこそ、このタイミングで帰ってきたと。
——そもそもWWEに行った理由が、IWGPを獲るための一つの過程であったと。
ヨシタツ そうですね。まず、そもそもなんで、自分が新日本を辞めたかというと、昔から言ってる通り、「このままでは棚橋(弘至)、中邑(真輔)を抜けない」と思ったから。イコール、それは「このままではIWGPを巻けない」ということですから。
——自分を成長させるために、辞める決意をしたというか。
ヨシタツ ええ。で、当時の自分が思い浮かんだ、唯一の方法が「世界最高峰のWWEに行って、世界のトップ連中に揉まれて帰ってくれば、棚橋、中邑を抜くだけの実力もつくだろうし、周りもボクを認めざるを得ないだろう」と。
——なるほど。
ヨシタツ だから新日本に帰ってくることは、ボクの中では“大前提”の話なんですよ。逆にここに帰ってこなければ、話のつじつまが合わなくなる。新日本以外の選択肢は微塵も考えませんでしたね。
——帰ってきた新日本のリングの空気はいかがでしたか?
ヨシタツ いやー、もう全然違いましたね。まず、お客さんの数が昔とは違うし。すべてポジティブな意味ですけど、お客さんや会場の雰囲気も違えば、スタッフの雰囲気も違う、選手の雰囲気も違う。なんというか……べつの団体に来たような感じですね。完全に浦島太郎状態というか。
——とくに驚かれたところは?
ヨシタツ やっぱり「よくここまでにしたな」って気持ちが大きくて。いまいる選手に対するリスペクトは凄くありますね。ボクが離れた7年前は、「あまり状況がよくない」と言われていた時期でしたし。現在の状況を知らなかったので、「よくここまでにしたな」と。そこは正直「凄いな」と思います。
■BULLET CLUBって、じつはいまアメリカでもの凄く知名度が高いんですよ
——今回、両国では、棚橋選手がジェフ・ジャレットに襲撃されるピンチを救出する形で登場しましたが?
ヨシタツ いや、べつにね。結果的に「助けた」ことになってるのであれば、全然ボクは構わないというか。棚橋さんはやっぱり尊敬する先輩なので。結果そうなったのであれば全然いいんですけど……。ただ、そもそもボクは棚橋さんを助けるために、両国に来たわけではないんですよ。
——では、一番の目的というのは?
ヨシタツ 両国の試合の中で、どうしてもボクの中で「許せない」っていう部分があって。それは、「いまどのユニットが新日本で一番勢いがあるのか?」という部分。それって、どう考えてもBULLET CLUBじゃないですか?
——たしかにBULLET CLUBは、今年の新日本を席巻しました。
ヨシタツ まぁ、たとえばWWEってアメリカの団体ですけど、アメリカの団体はアメリカ人がトップを獲ればいいと思います。同じように「日本の団体では、日本人がトップを獲らないと」って気持ちがある。それなのに、「なんで、いまアメリカ人に牛耳られてるの?」って。
——そこに不満があった、と。
ヨシタツ 今回の自分の動機としては、そこがあるんですよ。BULLET CLUBが新日本で好き勝手やってるってこと。あとは……もう1個、雑学的な部分ですけど、BULLET CLUBって、じつはいまアメリカでもの凄く知名度が高いんです。
——そういうウワサは、聞いたことありますね。
ヨシタツ むしろアメリカのほうが知名度が高いんじゃないかってぐらい。言い方は少し難しいですけど……、言ったら「逆輸入番のnWoになりえる」ぐらいの可能性すら秘めてるんです。
——かつて、ハルク・ホーガンやスコット・ホールらが盛り上げたnWoムーブメント。今度は、逆に日本発のムーブメントになる可能性がBULLET CLUBにはある?
ヨシタツ ええ。まだそこまで大きなムーブメントではないですけど、やり方次第で、そうなりえるぐらいの勢いになってます。だってね、BULLET CLUBのTシャツを、WWEの社員が普通に着てるんですよ。
——WWEの社員がBULLET CLUBのTシャツを!!
ヨシタツ ハイ。選手でも着てる人はいますし。ボクはこの前、世界で一番大きいコンベンションのサイン会に呼んでもらったんですよ。その時も、BULLET CLUBのTシャツ着てるファンが相当いましたから。もちろん全員アメリカ人です。
——そこまで浸透していましたか。
ヨシタツ だから両国で言ったように、「BULLET CLUBはボクが一人で壊滅してもいい」と。なぜなら、その行為で、ボクの世界的な株価が、また急上昇するんです(ニヤリ)。
——そんな“読み”を踏まえてのプランでしたか。
ヨシタツ WWEを経験したことで、ボクの上がった価値を、さらに世界的な価値に引き上げたいと。そこもBULLET CLUBを標的にする理由です。
——その甲斐あって、早くも大阪大会でAJスタイルズとシングルが組まれましたが、AJ選手に関しては?
ヨシタツ フフフ。逆にAJスタイルズってどういう選手だと思いますか?
——元TNA世界王者ですし、現在進行形のアメリカのスターであり、トップクラスの選手だと思います。
ヨシタツ ええ。ボクもAJは凄くいいレスラーだと思います。……ただしね、ボクが前いたWWEっていうのは、凄いレスラーっていうのは、ゴロゴロいたんですよ(ニヤリ)。だから彼は、英語で言うと……、こういう言い回しがあるんですね。「HE IS NOT SPECIAL!」ってね(ダブルのピースサインの指を何度も折り曲げながら)。
——「HE IS NOT SPECIAL」!!
ヨシタツ フフフ。「AJはいい選手だけど、けしてスペシャルではないよ」と。ボクはアメリカで、そういう凄い選手を倒してきてます。例えば、テッド・デビアス・ジュニア(父はテッド・デビアス)はデビアス家。コーディ・ローズ(父はダスティ・ローデス)はラネルズ家。そしてタイソン・キッド(カナダ出身)、彼はハート一族。チャボ・ゲレロはゲレロ家。カリート(父はカルロス・コロン)は、コロン家……こんだけレスリングの名門一族をシングルで倒してきた日本人って、ボク1人しかいないですよ。だからAJスタイルズも倒せます(キッパリ)。
——まずは、外国人トップのAJスタイルズを標的にしていく?
ヨシタツ そうですね。トップを先に倒せば、あとは楽になるんじゃないかって。まぁ、BULLET CLUBに関しては、どうしても一人で壊滅に追い込みたいですよね。
■WWEで学んだ自覚や覚悟……、ヤングライオンのボクとはまったく違うと思います
——WWEの経験で得た、一番大きなものはなんでしょう?
ヨシタツ すべて、ですかね。とくにレスリングに対する覚悟や責任感。あれだけ大きい会社で、世界中から自分を見られている環境の中で、プレッシャーにも打ち勝たないと成し遂げられなかった。そういう自覚や覚悟。そこは、ヤングライオンの頃のボクとはまったく違うと思います。
——ヨシタツさんは、下部組織から自分の力でWWEで這い上がった。そこも自信につながりましたか?
ヨシタツ ええ。ただ、自分はそうじゃないと意味がなかったんです。例えば、ボクが鳴り物入りでWWE入って、マネージャーや英語の教師をつけてもらったり……。そういう環境なら、逆にダメだったでしょう。あくまで「棚橋、中邑を抜くため」「IWGPを巻く実力をつけるため」にWWEに行ったわけですから。ゼロから叩き上げであの位置まで行けた。それ自体に意味があったし、大きな自信になりましたね。
——加えて、現在は、4つのシングルベルトを保持しているようですね。
ヨシタツ ええ。仲間内からは「獲りすぎじゃないか」とも言われてますけど(笑)。ボクは、WWEをリリースされる前から、「一度はアメリカのインディーを経験しないといけない」と思ってたんです。WWEの選手から、どれだけ過酷かは聞いてたので。新日本時代、海外遠征を行かせてもらったときは新日本という後ろ盾があったから、ヘルプしてくれる人間も多かった。一度、誰もヘルプしてくれないインディー体験は、絶対にしようと決めてました。
——その成果が、いまのベルト四冠王というか。
ヨシタツ これもボクが絶対通らなくてはいけなかった道ですね。お恥ずかしながら、新日本でもWWEでも、生涯一度もベルトを巻いたことがなかったんですよ。
——そう言われてみれば、そうですね。
ヨシタツ そこは凄く勉強になって、「ベルトを巻く意味」っていうんですかね? そういった団体に呼ばれるとき、「元WWEスーパースター」って感じで、ポスターではボク1人がドーンと載ってるんです。それでお客さんが入んなかったら、ボク1人の責任ですから。そこで学んだのは、チャンピオンの立ち振る舞いですね。強いのは大前提。プラス・お客さんを団体に呼んでくる、お金を団体に運ぶ、そこまでできて本当のチャンピオン。「しょせんインディーじゃん?」と言われたらそれまでですけど。非常に得るものが大きかったです。
■今後、棚橋さんとは闘っても、組んでも違和感はないと思います
——今後、ヨシタツ選手は新日本ファンに、どういったものをみせていきたいですか?
ヨシタツ ……いまのボクの名前は山本尚史ではないので。昔からボクのことを知ってくれてるファンは、「山本尚史はどれだけヨシタツになって変わったのか?」を見てもらえればいいし。新しくファンになった方は、「元WWEのヨシタツって、どのぐらいやんの?」って風に見てもらえればいいですね。
——あと、ファイトスタイルはWWEスタイルか、今の新日本に合わせていくのか?
ヨシタツ う〜ん。若干、日本のスタイルに戻す必要はあると思うんですけど、いまの新日本の自体、ボクがいたWWE寄りになってきてるんですよね。ある意味、やりやすいというか。その辺はボクには利点という感じがします。
——あと、ファンからするとヨシタツさんは「敵なのか味方なのか?」っていうのも気になるところですが。
ヨシタツ いまのところは何もないですね。たとえば棚橋さんとはリングで闘っても、組んでも違和感はないと思いますから。
——このタイミングで来たということでは、1.4東京ドームも視界に入っていますか?