大好評!ゲームデザイナーの野中大三さんによるプロレスコラム。今回は、「ダブルリーグ戦のカギを握るのはフラッグシッププレイヤー」!
■第37回「『NJPW STRONG』は、NEW JAPAN流チューニングの賜物」
みなさん、こんにちは。
コラム「ゲーム的プロレス論」の野中です。
今回のコラムでは海の向こうのもう一つの新日本プロレス、『NJPW STRONG』(以降『STRONG』)についてゲーム的プロレス論を展開してみます。
2021年1月15日公開の第27回でも『STRONG』について論じましたが、あれから10ヵ月が経ち、『STRONG』マットは大きな進化を遂げています。その進化の要因がどこにあるのかを論じていきます。
2020年8月にスタートした『NJPW STRONG』はスタートから1年と4カ月が経過しました。
配信当初は馴染みの薄い選手が次々に出場するトライアウト感の強い配信大会でしたが、今ではしっかりとした戦いの柱がいくつも見えてきました。
結論として、『STRONG』は「アメリカ版新日本プロレス」といえるポジションをしっかり獲得できていると言えます。
プロレス団体、興行が非常に多いアメリカ市場において新日本プロレスらしさを打ち出し、観客もそれを『STRONG』の持ち味であると受け入れています。
新日本プロレスらしい戦いを求めて集った選手がしのぎを削り、その姿を見て観客が熱狂するという選手、観客、団体の一体感が強いリングができていると僕は感じています。
■『STRONG』を支える3つの柱
『STRONG』を支える柱は3本あると考えます。
まず挙げられるのが、STRONG無差別級王者のトム・ローラー選手でしょう。
総合格闘技出身者ながら、プロレス技やアピールを巧みに取り入れたテクニカルなファイターです。STRONG無差別級王座獲得以来、キャリア、国籍、階級を問わず様々な相手の挑戦を退けること6回。絶対的な王者としてSTRONGマットに君臨しています。
その次の柱は激化するユニット抗争です。
王者トム・ローラー選手が率いるヒールユニットTEAM FILTHYが絶対的なヒールとして君臨し、その対角に立つのがフレッド・ロッサー選手、ロッキー・ロメロ選手を中心としたSTRONG本隊チームです。
いわゆる正規軍ですね。
強い結束力と反則を許さない正々堂々としたファイトに好感が持てます。
本隊の中にはLA DOJOが存在してカール・フレドリックス選手、クラーク・コナーズ選手を中心にヤングライオン達が活きのいいファイトを見せてくれます。
さらに、ブロディ・キング選手とクリス・ディッキンソン選手のVILENCE UNLIMITED、べイトマン選手が結成した暗黒系ヒールユニットのSTRAY DOG ARMYといった新興勢力も次々に誕生しており、ユニット抗争から目が離せない状況になっています。
最後に、3本目の柱はボーダーレスな戦いです。
『STRONG』にはAEWやIMPACT WRESTLINGの選手も多数出場しており、それぞれのマットを行き来しながら抗争を繰り広げています。選手によってホームとアウェーで戦い方や声援が異なるというのも見ているととても興味深いです。
これらの試合はNEW JAPAN WORLDで多数配信されているのでぜひチェックしてみてください。
■魅力の秘密はチューニングにあり
さて、『STRONG』が、プロレス先進国のアメリカで確固たる存在感を放つ理由はなんでしょうか。
僕はしっかりとしたチューニングが施された結果だと考えています。
「アメリカ版新日本プロレス」と一言で表すのは簡単ですが、日本の新日本プロレスの選手が移動したわけではありません。
日本とは全く異なるメンバーであるにも関わらず、なぜ新日本プロレスらしさが出せたのか。なぜアメリカのプロレスファンが熱狂するプロレスを打ち出すことができたのか。
その秘密は2つのチューニング要素にあります。
1つ目は「日本から新日イズムを持ち込んだ選手がいたこと。」
これは簡単ですね。LADOJOでコーチを務める柴田勝頼選手や、日本での試合経験が長いロッキー・ロメロ選手、デビッド・フィンレー選手、ジュース・ロビンソン選手たちが新日本プロレスの空気を持ち込んだことによります。さらに定期的に日本からいろんな選手が参戦してきたことで伝承されたのです。
この点は観ている方なら大多数の方が同意見でしょう。
2つ目は「無観客興行が長かったこと。」
僕はこれこそが精度の高いチューニング効果をもたらしたものだと考えています。
コロナ禍の真っただ中でスタートした『STRONG』は無観客の配信マッチを長い期間継続しました。
ライブ配信でではなく収録配信なので、観客の声がリアルタイムにわからないのです。
観客の目や歓声がない中での試合は苦労することが多かったと思います。
しかし、だからこそ選手はリング内の試合に集中できたのでしょう。
プロレスにおいて観客の存在はとても重要です。有観客興行をスタートした『STRONG』を見ているとそれは言うまでもありませんが、その観客がいない状態で13ヵ月間(長い!)に渡って試合を行いながら、『STRONG』内でのポジション争いをしてきたのです。
新日本プロレスの最大の魅力はそこに“戦い”があることです。
選手が命をかけ、人生をかけてプロレスラーとして成功することを目指して戦う姿にファンは夢を見ます。
無観客興行を続けた『STRONG』は歓声がないからこそ、目の前の“戦い”にすべてを賭けてぶつかることができていたのです。
13ヵ月間の無観客興行で選手の戦いへの集中力は研ぎ澄まされ、攻防は磨きつくされたのです。
気が付いたときにはそこに「アメリカ版新日本プロレス」が完成していました。
これこそがチューニングの賜物だと言えるのです。
■チューニングはゲームに生命線を握る
ゲーム開発でもチューニングは非常に大切な工程です。
一旦ゲームが完成したのち、不具合がないかチェックを行うデバッグ作業の前に行う調整作業をチューニングと言います。この作業はユーザーさんの立場、気持ちになりきって何度も何度もゲームをプレイしては難易度やプレイ感覚の変更を行います。
ボタンを押したときのキャラクターの動きは気持ちいいのか、メニュー画面の文字配置は読みやすくワクワクするものになっているのか、といった細かな点をすべてチェックしていきます。
この工程がなくてもゲームは完成しますが、この工程をじっくり行ったタイトルは間違いなくユーザー満足度の高いものになります。
開発終盤で時間も予算も限られた中であきらめることなく得心が行くまでチューニングを行うことで後に良作と呼ばれるゲームが生まれるのです。
■『STRONG』の先にあるもの
チューニングをしっかりできた『STRONG』は今大きな盛り上がりを見せています。
スタイルが確立されたリングには飛躍しかありません。
王者トム・ローラー選手はそのチューニングの最高の産物と言えます。
日本に来日することなく新日本らしいチャンピオンに上り詰めたローラー選手と、そのローラー選手が巻いたSTRONG無差別級王座のベルトはこれからも価値を上げるでしょう。
そして今後はその価値を求めて強豪選手が集います。
新日本プロレスらしい、終わることない戦いの連鎖がもうはじまっているのです。
僕はいつか強く大きくなった『STRONG』が日本に逆輸入をしてくることを期待しています。
それが起こったときプロレス界に起こるのが革命なのか奇跡なのか、考えただけでもワクワクしますよね。
『NJPW STRONG』は毎週日曜朝10時!
ぜひみなさんもチェックしてください!
■『NJPW STRONG』
12月19日(日)朝10時~新日本プロレスワールドで配信!
★新日本プロレスワールドはコチラから!
■野中大三(のなかだいぞう)
dotswreslerアーティスト、コラムニスト
プロレス観戦歴、ゲーム歴ともに37年。
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