プロレス界随一の論客・“GK”金沢克彦氏の独特の視点から、現在進行形の新日本プロレスに関するコラムを続々レポート(不定期連載)!!
今回は「“リビング・レジェンド”たりえる唯一無二の存在」獣神サンダー・ライガー“引退”にいま思うこと
■彼らしい引退発表だなと思ったし、正直いって私なども早晩このときが来るだろうと予想はしていた
新日本プロレス旗揚げ記念日、3.6大田区総合体育館大会の翌7日、新日本プロレス事務所で衝撃の記者会見が行なわれた。
獣神サンダー・ライガーの引退発表である。
一応、“衝撃”と謳ってみたのだが、ライガー自身はいつも通りのテンションで感傷的な発言は皆無。もともと、竹を割ったような性格というのがもっともピッタリとくる男がライガー。彼らしい引退発表だなと思ったし、正直いって私なども早晩このときが来るだろうと予想はしていた。
新日本プロレス一筋、新日本最古参となるライガーとはもうすぐ33年の付き合いになる。阿吽とまではいかないかもしれないが、気心は知れている。彼と日常的に会話したり、インタビューのついでに雑談していたりすると、「そのとき」はもうそろそろ近いのだろうなと数年前から感じていたのだ。
1989年、つまり平成元年4月の東京ドーム大会で、獣神ライガー(当時)としてデビューしてから、平成の30年間を駆け抜け、新元号となる2020年1月の東京ドームで引退。本人曰く、「カッコいいだろ?」となるが、じつにカッコいい。
だけど、もっと凄いことは、素顔時代までさかのぼるなら、昭和、平成、新元号と3期にわたって第一線、ジュニアのトップ戦線を張る人気レスラーとして生き抜いてきたことだろう。
しかも、日本、アメリカ、イギリス、メキシコと世界中のプロレスファンでライガーを知らない者はいないだろうし、世界中のレスラーからリスペクトされている。そういった意味では大袈裟ではなく、“リビング・レジェンド”たりえる唯一無二の存在は、ライガーだけではないかと思うのだ。
■場外フロアーへ直撃の垂直落下式ブレーンバスター。早くも刀を抜いてみせた。この破天荒すぎるムーブは特別な相手にしか披露しない。
ここで、前日の試合、おそらくライガーにとって最後のIWGPジュニアヘビー級選手権となったであろう石森太二との闘いを振り返ってみたい。
2.11エディオンアリーナ大阪大会で田口隆祐を相手にIWGPジュニアⅤ1に成功した王者・石森が、自ら挑戦者に指名するカタチで実現したライガーとの2度目の防衛戦。
館内を包む圧倒的な「ライガー」コールに後押しされるように、ライガーが自分自身の歴史そのものを王者にぶつけていった。まず、ロメロスペシャルから変型のカベルナリオ。これはライガーのオリジナル技である。
つづいて、場外フロアーへ直撃の垂直落下式ブレーンバスター。早くも刀を抜いてみせた。この破天荒すぎるムーブは特別な相手にしか披露しない。私のしるかぎりでは、石森が3人目となるか。
過去、見舞ったのは高橋ヒロムに対してだけ。2013年開催の『BEST OF THE SUPERJr.XX』にヤングライオンとして初エントリーしたのが、高橋広夢(当時)だった。その公式戦の初戦(5.24後楽園ホール)で、ライガーは広夢に容赦なくこの大技を決めている。
それから4年後、広夢はロス・インゴベルナブレス・デ・ハポンの高橋ヒロムとして、『BEST OF THE SUPEJr.24』に帰ってきた。しかも、ヒロムの腰にはIWGPジュニアのベルトが巻かれていた。
2017年の5.18後楽園ホール。またもライガーは刀を抜いた。場外フロアー直撃の垂直落下式ブレーンバスター。背筋が凍るような一撃。しかし、それに耐えたヒロムはリング中央で堂々とTIME BOMBを決めて獣神を沈めた。ライガーへの恩返しだった。
■丸藤、ヒロム、そして今回の石森と、ライガーが刀を抜く相手は絶対的な受身の上手さを持っている選手だけなのだ
もうひとつ、忘れられないシーンがある。それは2010年の4.4後楽園ホール。IWGPジュニアヘビー級選手権の丸藤正道vsライガーのタイトル戦。当時、NOAHからやってきた外敵の丸藤は、同年の1.4東京ドームでタイガーマスクからベルトを奪取し、プリンス・デヴィット、金本浩二と新日本ジュニア精鋭陣の挑戦をことごとく退けていた。
絶対王者となりつつある丸藤の前に立ちはだかったのが、しばらくタイトル戦線からは引いていたライガー。ここで鬼のライガーが大爆発。場外フロアーへ高角度パワーボム、さらにブレーンバスターで追撃。
最後は丸藤のタイガーフロウジョンに屈したものの、ライガー恐るべしをまざまざと見せつけられた一戦である。
こう書いていくとお分かりだろう。丸藤、ヒロム(広夢)、そして今回の石森と、ライガーが刀を抜く相手は絶対的な受身の上手さを持っている選手だけなのだ。だれもかれでもない。その力量を認めている相手にしか、こういう刀を抜くことはないのである。
次は、雪崩式フランケンシュタイナーを決めた。いまではだれもが見せるこのムーブだが、スコット・スタイナーが開発したフランケンシュタイナーを雪崩式で決めた世界で初めてのレスラーがライガーである。ちなみに、ヘビー級で初めてこの技を披露したのが武藤敬司。
石森がブラディクロスを狙ったところでは、フィッシャーマンバスターでの切り返し。この技もライガーオリジナルで、雪崩式フィッシャーマンバスターは一時期、フィニッシャーに使っていたこともある。
そして、骨法流の掌底からライガーボムへ。これまたライガーオリジナルのフィニッシュ技。いま、シットダウン式パワーボムと呼ばれているものは、すべてライガーボムのことだし、飯伏幸太が得意とするシットダウン式ラストライドもライガーボムからの派生技。
さらに試合終盤には、虚を衝いたテーズプレス(フライング・ボディシザーズドロップ)も出て、あわやの場面を作りだしている。これも、キャリアを重ね飛び技を減らしていたライガーが勝負所で披露する老練なテクニックである。
最後は、石森の旋回式Yes Lockにタップアウト負けを喫したものの、なにかライガーの積み重ねてきた年輪と、その重さを存分に見せつけられたような闘い模様であった。
ライガーオリジナルはそれだけにとどまらない。現代の空中戦ファイターたちが当たり前のように繰り出してみせるシューティング・スタープレスの創始者もライガーだし、すこし前まで内藤哲也が切札にしていたスターダストプレスの考案者もライガー。
空中戦の進化という面においても、ライガーは世界中のレスラーに影響を与えてきたのだ。
■私がライガーから「そのとき」が近づいているのを初めて聞いたのは、2015年の9.4後楽園ホール大会の試合後だった
その試合後にライガーは言った。
「石森が強くてオレが弱かった。それだけ。他にはなにもないよ。何もない。オレなりに今の試合をして、いろいろ考えるところもあって。まあ近いうちにいろいろ語らせてもらいます。今ここではほかの試合もあるし」
すこし意味深な言いまわしだった。このとき、ピンときた。
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