プロレス界随一の論客・“GK”金沢克彦氏の独特の視点から、現在進行形の新日本プロレスのビッグマッチの感想を続々レポート(不定期連載)!!
今回は「 “得体の知れない可能性を秘めた男”ジェイ・ホワイトとは何者か? 2.11大阪大会を大総括!」
■ジェイ・ホワイトというレスラーは、古き良き時代のアメリカンプロレスの世界王者スタイルを踏襲しているようにも映る
「雪の札幌では何かが起こる」につづく、「2月の大阪では何かが起こる」が現実のものとなったーー。
7年前の2012年、2月12日、大阪府立体育会館で当時、IWGPヘビー級絶対王者として、Ⅴ11の新記録を樹立したばかりの棚橋弘至に、1.4東京ドームに凱旋したばかりのオカダ・カズチカが初挑戦。
大方の予想を覆し、レインメーカーで王座を奪取した。24歳という若き新王者の誕生。それ以降、オカダ時代がスタートするわけだが、当時は“レインメーカーショック”と称されるほど絶大なインパクトを放つ大番狂わせと見なされていた。
今回の2.11エディオンアリーナ大阪大会に関しても、似たような見かたをされていたフシがある。2月の大阪、王者が棚橋。挑戦者は今回がIWGPヘビー級王座初挑戦となる26歳のジェイ・ホワイト。
ただし、実績の面からいうなら、当時のオカダといまのジェイでは大きく違う。米国TNA遠征から帰国して1カ月余り。凱旋マッチ(対YOSHI―HASHI)もそれほど評価されたわけではなく、本番までの棚橋とのタッグ前哨戦で、「思ったよりやるな!」程度の評価をもらっていたのがオカダ。
ところが、ジェイはこの1年余で十二分といってもいい結果を残してきた。棚橋とのシングルマッチでは1勝2敗ながら、オカダ戦には2戦2勝。さらに1年前、2018年の1.28札幌大会(北海きたえーる)では、難攻不落と思われていたケニー・オメガからIWGP USヘビー級王座を奪取しているのだ。
文句なしの実績である。ただし、ジェイの試合は一目見て観客が「ウォーッ!」と沸くようなスタイルではない。ひとことで言うなら、現代プロレスとかアスリートプロレスと言われる最近の主流であるド派手なプロレスとは一線を画す。
たとえば、いわゆる現代プロレスの筆頭格とも言えるのが、前外国人エースであったケニー・オメガであり、その前の外国人エースであるAJスタイルズだろう。その他、ジュニアから無差別級に転向したばかりのウィル・オスプレイがそうだし、日本人でいえば圧倒的な身体能力の高さを誇る飯伏幸太が好例である。
また以前、強いていえばジェイは蝶野正洋タイプと書いたこともあったが、今回のタイトルマッチを見てそこにプラスアルファされる要素を感じた。
ビギナーファンにはピンとこない名前かもしれないのだが、誰を相手にしても自分の世界観を崩さない。どのような内容であれ、終わってみれば、試合に勝っている。ジェイ・ホワイトというレスラーは、古き良き時代のアメリカンプロレスの世界王者スタイルを踏襲しているようにも映る。
しかも米国WWEスタイルではなくて、1960~1970年代にかけて世界ナンバー1の団体と呼ばれ、それ以降の1990年代半ばまでWWEと張り合うカタチで全米レスリングウォーを展開していたNWA(のちのWCW)スタイルに近いと思う。
そのNWA全盛期に王者であったジャック・ブリスコ、ハーリー・レイス、リック・フレアーといったプロレス史に名を残す名レスラーたちがダブって見えてくるのだ。
つまり飛びぬけたパワーや派手な空中戦があるわけではないが、インサイドワークとレスリングの上手さで勝負するタイプ。しかも、ジェイの場合、蝶野と同様でやろうと思えば飛び技もできるのに、あえてやらない。そこにこだわりさえ感じる。
もうひとつのこだわりは徹底的に憎まれるヒールを貫いていること。たとえヒールユニットに属していようとも、AJ、ケニーはいつの間にかベビーフェイスとして見られていたし、その華麗さ、豪快さでファンの支持を受けてきた。しかし、ジェイはそれをすべて拒絶して憎まれることだけに専念しているように見えるのだ。
26歳、キャリア6年で、ここまでプロに徹したパフォーマンスができることじたいが驚きだし、聞いているとムカついてくるような傲慢なコメントも計算通りなのだとしたら、本当にとんでもない若者だと思う。末恐ろしいどころか、いま現在で充分恐ろしいほど頭のキレる男なのである。
さて、先の1.4東京ドームのメインイベントであるIWGPヘビー級選手権は、イデオロギー闘争と謳われた。大技、危険技を連発するケニー・オメガのスタイルを「品がない」と挑戦者の棚橋が言えば、王者のケニーは「棚橋のプロレスでは新日本を世界のトップにもっていけない」と切り返した。結果は、棚橋の勝利。
ただし、今回のⅤ1戦に関して、棚橋からジェイのスタイルを批判するような発言は一度も出てこなかった。これはなにより、ジェイのスタイルを棚橋が認めている証拠だろう。
反則行為に関してはとうてい認めることはできなくとも、そのオーソドックスなレスリング、一点集中攻撃からフィニッシュへつなげる技の組み立てなど、むしろ棚橋に似ているからだ。それがまったく異なるように見えてしまうのは、棚橋がファンのハートをしっかり掴んだベビーフェイスであるのに対し、ジェイは誰もが嫌悪するようなヒールの立場から一歩も出ようとしないからだろう。
■私は嫌な予感がしていた。王者の棚橋がロープをまたいでリングインする瞬間、足運びがぎこちないのが見えてしまったのだ
新王者の石森太二を相手に田口隆祐があらためて真の実力を見せつけたIWGPジュニアヘビー級選手権、さらにオカダがみごとに天敵であるバッドラック・ファレをレインメーカーで沈めた好勝負を受けて、迎えたメインイベント。
おそらく、誰もが棚橋のⅤ1を予想していたし、前哨戦ではやりたい放題で棚橋の右ヒザを壊しにきたジェイが敗れる姿を想像していたのではないか。つまり二度目の“レインメーカーショック”ならぬ“スイッチブレイドショック”は起こり得ない。最後はハッピーエンドで、新日本プロレスは3月の『NEW JAPAN CUP』、4月の米国ニューヨーク大会(マジソン・スクエア・ガーデン)に向かうだろうという図式である。
ところが、最初から私は嫌な予感がしていた。王者の棚橋がロープをまたいでリングインする瞬間、足運びがぎこちないのが見えてしまったのだ。これはそうとう、右ヒザのダメージが蓄積されているなと感じた。
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