井上亘スペシャルインタビュー(前編)/メキシコでの大きな成果
今年7月、1通の置手紙を残し、突如として失踪。それからまったく音信不通だった井上亘選手。11月11日両国国技館大会でついに復活を遂げた今、空白の4ヶ月間を赤裸々に告白した——。
–これまでの経緯について、ご自身からお話いただけますか?
井上「今年は、どうしても新日本Jr.のトップに立ちたいと思っていたんです。だけど、IWGP Jr.も、『BEST OF THE SUPER Jr.XIV』も、そしてIWGP Jr.タッグも、獲ることができなかった。いい所まで行くんだけど、最後の詰めが甘い。そういう自分に苛立ちもありましたし、自分を変えたいというか、1つだけではなく色んな感情が入り混じって、ああいう行動に出てしまいました」
–それにしても、かなり大胆でしたね?
井上「あの時はとても悩んでいました。今思えば、あの行動はプロとして最低だと思うし、そんなことをしてしまう自分がいることにビックリしています。だけど、踏み出さずにはいられなかった」
–それで、メキシコに行っていたとのことですが?
井上「2002年に10日弱ぐらいの日程でメキシコ遠征に行った時、自分には合わない土地だと感じ、もう行くことはないと思っていたんです。僕はメキシコに限らず、あまり今まで海外へ目を向けたことがなくて。でも、見過ごしてきたモノがあるだろうと。自分で色んなことを経験してからこそ分かったことなんですけど、物事は完璧ではなく、いい面と悪い面があるはずだと。そうやって考えると、自分にとっては悪いイメージしか見えてなかったメキシコにも、反対側(いい面)があるんじゃないかという思いでした」
–向こうではどんな生活を?
井上「ウルティモ・ドラゴン校長と連絡を取ることができまして、闘龍門を生活の拠点にしていました。朝はアレナ・メヒコでルチャ・リブレのクラス(スクール)に参加したり、昼に戻って来て食事して、ウェートトレーニングをやったり、朝やったことの反復練習をしたりですね。それと、闘龍門に溜まっていたアメリカやメキシコの(プロレスの)ビデオを観ていました」
–それを観て感じたことは?
井上「『自分に活かせそうだな』と刺激を受ける部分がありまして、そういうモノを毎日ちょっとずつ溜めて行くようにしました。そこからイメージを膨らませて、『自分流や、日本流にアレンジできないかな?』と考えていましたね」
–何でも吸収しようとしていた?
井上「悩んでいる時、本当にたくさんの方々からアドバイスをいただきました。でも、自分自身が変わらなければ、そのアドバイスも消化できないですからね。幸い、メキシコには気を取られるような所がなくて、練習に集中できたのでよかったです。そういった(プロレスに関する)ことが常に頭から離れないので、日常のちょっとしたことでも自分のプロレス感に繋がってくると言いますか」
–メキシコで得た物とは何ですか?
井上「向こうで試合をしていると、たいていメキシコ人vs日本人、つまりテクニコ(ベビーフェイス)vsルード(ヒール)になります。僕たちが入ると大ブーイングで迎えられ、試合が始まれば大『メヒコ(メキシコ)』コール。だけど、そうやって行く内に、僕があることに気がついて、それをちょっとやってみたんです。すると、『メヒコ』コール一色だった会場が、所々『ハポン(日本)』コールに変わったんですよ」
–井上選手の仕掛けで、観客の反応に変化があったわけですね。
井上「それで、『メヒコ』コールを送っていた人たちは、負けたくないからまたコールを始めるんですね。でも、やっていく内にまた『ハポン』コールになる。最初は0:10だったのが、まぁ、4:6ぐらいにはなった。すると、リングに対する集中力というのが一気に増したんです。一体感が生まれたというか」
–盛り上がっている会場は、どこでもそういう雰囲気ですよね。
井上「以前、(ザ・グレート・)カブキさんにお会いした時、『君は今どんなことに悩んでいるんだ?』とお声を掛けていただきまして、『僕も君と同じキャリアの時に、同じような悩みを持っていた。でも、ある瞬間、目からウロコが落ちるかのごとく、プロレスが分かる時が来る』という言葉をいただいたんです。その場では、『早くその瞬間が訪れればいいな』ぐらいにしか思っていなかったんですけど、メキシコのリングの上で、『ああ、カブキさんがおっしゃっていたのは、こういうことか』と思いましたね。たしかに、これは人から人へ言葉で伝えたのでは分からない。自分が感じ取って、やって行かないとできないでしょうね」
–まさしく、開眼した?
井上「たしかに勝敗には関係ないことなんですけど、凄く大事なことに気づかされた瞬間でした。僕は1人のレスラーとしてお客さんと勝負をして伝わっている。もしかしたら、日本にいてもいつか経験できたことかもしれないですけど、メキシコで伝わったことが凄く自信になりました。メキシコでの大きな成果だと思っています」
–ファンに分かりやすく言うと、間(ま)みたいなものですか?
井上「これはもったいぶるわけじゃないんですけど、感覚的なものなんです。凄く簡単に言うと、中立のお客さんを、いかに試合へ引き込むかということですかね」
※明日は後編を掲載します。お楽しみに!!